「・・・でも分からないっスよ、ご主人」 「何がだ?スープー」 「だって封神計画は悪い仙道を封神台に閉じこめる計画のはずっスよ。なのにいい人の姜妃や伯邑孝さんが閉じこめられるのは納得いかないっス」 太公望、、四不象は竹林の中を歩いていた。 無論、四不象だけは浮いていたが。 「・・・仕方ないのう。おぬしにも分かるように説明するとだな・・・」 「ああっ!バカにしてるっス!バカにしてるっスね!?」 「何ですって!?四不象ちゃんバカにすることは私をバカにすることと同じよ!」 「なぜに・・・。まぁとりあえず聞けスープー。わしとは仙人界に帰った時、封神台の構造を解析したのだ。その結果、次のような事が分かった。 ほれ、交代」 「・・・なっ・・・ややこしい説明するときだけ使いやがって・・・・」 しかし睨むを太公望は全く気にしていない様子。 仕方なく、は四不象に向き、 「封神台は、普通の人間・仙道に関わらず『能力の高い者』を閉じこめるものらしいのね。 だから、四不象ちゃんが言うような『良い人』でも知力や武力が高ければ魂魄は封神台に引っ張られてしまうのよ」 「えっ・・・?じゃあご主人やさんみたいな崑崙山の人もやられたら封神されるっスか・・・?」 「うむ。定員365名を超えない限りはそうだ」 「だから間違っても封神されないように気を付けなきゃいけないのよね・・・」 「ずいぶんいい加減なものっスねぇ」 「元始天尊さまと十二仙が造ったものだからのう」 「そうそう、特に原始天尊さまが主だって造ったらしいからね。当てに出来ないわね」 「・・・ひどい言いようっスね、二人とも」 原始天尊がこの場にいれば、二人に向かってなんと言っただろうか。 「さあ、この竹林の向こうはいよいよ西岐だぞ!」 「西岐かぁ、やっと来れたね。豊かな国って聞くから楽しみだわ!」 太公望、、四不象は、そろそろ竹林を抜ける頃だった。 その人の国 「ねぇ・・・太公望の占いってホントに当たんの?何かイカサマしてんじゃないの?特に何これ、イワシ占いって・・・」 イワシって、だって普通に魚じゃない。 謎の『イワシ占い』なる占いのアイテム、イワシを掴み、は言った。 「失礼な・・・わしの占いは百発百中なのだぞ」 「信憑性ないよね・・・。でも私にも占い出来るかなぁ、ちょっとしてみたいかも。花占いとか」 あの、花びらをむしっては投げ、むしっては投げする占いのことだ。 「・・・あれは占いの部類に入るのか?」 「名前に『占い』付いてるんだから占いなんじゃないの?」 だがその占いだと二択しかない。 占いと言うよりもっと違うような気もした。 「でもお客さん来ないっスねぇ・・・もうお金ないっスよ」 「うむ・・・西岐では占いは不人気らしいのう。朝歌では結構な評判だったのだが。それにしても、また金をためてアンマンをたらふく食いたいものよのう」 「道士のくせにえらく食欲が旺盛っスね・・・」 3人は西岐に着いていた。 しかし、道士でも何かをするにはお腹が空くものらしい。 だが財布はからっぽ。 太公望が朝歌でやっていた『自称・占い』で金を入れようと思ったのだが、どうにも客が来ないのだった。 「それはそうと、姫昌さんに会わなくていいっスか?ご主人たちの使命は妲己を倒し、姫昌さんを次の王にする事っスよ」 「まだだ。物事にはタイミングというものが必要なのだ」 四不象の問いに太公望が答えた。 急には、座っている太公望と浮かんでいる四不象の方から視線を外し、パッと顔を上げた。 「どうした?」 そんなに気付き、太公望が聞いた。 「・・・・いや、何かさっきから・・・あの人こっち見て」 「うむ、分かっておる。しばらく様子を見よう。 ・・・・・さて!ここじゃ客は入らぬ!場所を変えるぞ!」 を途中で制して、太公望はわざと大きな声で言い、立ち上がった。 「それにしてもお腹空いた・・・。元始天尊さまもお金くらいくれても良いのに・・・」 が言った。 「はあ・・・金がないとなれば仕方あるまい。この道端に自生している大根を食う!!」 太公望は急にそう叫ぶとそこに生えていた大根を引っこ抜いた。 「ああっ!そこは畑っス!」 「太公望!生だからたぶんあんまり美味しくないと思うんだけど!」 「論点はそこじゃないっスさん!」 「冗談よ冗談。太公望、いくらなんでも畑のは駄目だと思うよ」 「そうっスそれっス、さんの言うとおりっスよ。それに西岐ではちゃんと法律が守られているっスから泥棒をすると捕まるっスよ!」 「ぬぅ・・・スープーは草食だから気楽よのう」 そこは、町中から少し外れた河の近く。 言い合いながら、太公望とは近くに生えている木を見た。 木の後ろには、隠れているつもりなのか違うのか、人影がある。 「・・・・さっきの人、やっぱりいるよ。何か用なんじゃない?」 「え?何がっスか?・・・って、ご主人?」 と四不象の言葉をよそに、太公望は畑から引っこ抜いた大根を持ったまま木の所にいる人物の場所へと向かった。 「何だおぬし!さっきからわしらの周りをうろつきおって!」 太公望は大根をその人物に突き出して言った。 大根なだけに迫力が感じられないが、違った意味で怖いだろう。 「えへへ・・・初めまして、ぼくの名は武吉!この西岐で木こりをしてますっ!」 木の陰から出てきたのは少年だった。 背筋をピンと伸ばし、ハキハキした口調で自己紹介をしてくれた。 手には斧を持っている。 「・・・うっ・・・・何か用か?」 相手の態度に太公望はどう対処すれば良いのか分からなくなったのだろうか。 少し狼狽える。 と、急にその『武吉』という人物が地面に手をつき、太公望に向かって言った。 「お願いします!!どうかこのぼくを弟子にして下さいっ!!」 一瞬、その場が静寂に包まれた。 「・・・・・ぷっ」 誰かが吹き出した。 「・・・・・太公望に・・・弟子・・・!?て事は・・・太公望は・・・・師匠!?ちょっ・・・どうしよう!あはははは!!」 だった。 「!おぬしは笑いすぎだ!・・・武吉とか言ったか?おぬし、何を言っておるのだ?」 「本気なんですっ!!ぼくは道士・太公望の武勇伝を聞いてずっと憧れてたんです!!」 「逃げるぞ、スープー」 未だ笑っているを引っ張りながら太公望は四不象を連れて逃げ出そうとした。 「どこ行くんですか?お師匠さま!」 逃げ出した太公望たちと武吉との間にはけっこう距離はあったはずだ。 が、その武吉は一瞬にして太公望たちの目の前に現れた。 「なっ・・・なんスかこの人・・・!ワープしたっスか!?」 「飛んで逃げるのだスープー!!いつまで笑っておるのだ!早く乗れ!」 「あー!待って下さいお師匠さまっ!!」 四不象は宙に浮き、かなりのスピードで飛んだはずだった。 四不象と太公望は下を見た。 「え!?走って追って来てるっスよ!?人がボクと同じ速さだなんて!!」 「ふふっ、あの人、もしかして天然道士じゃないの?」 は先程よりは収まったらしいが、まだ笑っている。 「天然道士・・・・っスか?」 「うーむ、そのようだ。武成王もそうなのだが・・・仙人骨のある人間が道士にならなかった場合に、ああいう異常体質になるのだ。 あんなのが人間界に混じっておったら混乱が生じるから、仙人界は1人残らず連れていくのだが・・・」 武吉は「おっしょーさまー!」と叫びながら地上をものすごいスピードで走っていた。 しかも全く疲れている様子はない。 むしろ太公望に会えて嬉しさ満開という雰囲気だ。 「あ、ねぇなんか団体が歩いてきてない?」 は眼下に見える先を指差した。 「あれは・・・・。いかん、ぶつかるぞ!」 武吉は太公望の声には気付かず。 笑顔のまま、太公望たち上空を見上げ、走っていたから。 ド ン !! 思い切り。 「・・・ぶつかった・・・ていうかあの人って姫昌さんじゃ」 前方不注意。 武吉は前方から歩いてきていた姫昌にぶつかった。 どうやら姫昌は息子や護衛と共に、町の様子を視察にきていたと思われる。 武吉とぶつかった姫昌はものすごく吹っ飛んだ。 無論、武吉には何の衝撃もなかった。 天然道士のすごいところだ。 驚くべき力。 「・・・あ・・・・姫昌様!?」 武吉が叫んだ。 武吉は西岐の人間。 その西岐を束ねる姫昌の顔は、もちろん知っていたのだ。 「父上、お怪我は!?」 「妲己の刺客か!?」 姫昌の息子たちが言い、姫昌を起こした。 「もっ・・・申し訳ございませんっ!!」 バンッ という大きな音をたて、武吉は地面に手をついた。 「国の宝である姫昌様をぼくは・・・・っどんな罰も受けます!法の裁きを!」 頭を下げたまま、武吉は姫昌に向かって言った。 太公望と、四不象は驚いてその場を見守る。 ここまで、真っ直ぐに謝ることの出来る若者がいるなんて。 姫昌が、手をついたままの武吉に近付いた。 「立ちなさい青年」 投げかけられた言葉に、武吉は恐る恐る顔を上げた。 「いい目だ。健やかで正しい者だけが持ち得る目だ。私は君を許そう。キミには人を引き付ける何かがある・・・それは持って生まれた人徳だよ」 「・・・さすがは姫昌、器が違うのう・・・」 太公望は感嘆の声を上げた。 も嬉しそうに頷く。 が、 「許してはいけません」 息子の一人が間に入り、言った。 「四大諸侯を傷つけた者は死刑と法で決まっています。指導者たる父上が法を破っては民への示しがつきません」 姫昌に近付き、一人の男性は言い放った。 「うわっ、固い人がいる。すごく固い人がいる。誰あれ、誰あれ!」 「あやつは・・・確か姫昌の第四子、周公旦だ。ここ西岐で最も名高い政治家として有名だぞ」 太公望が言った。 「え、周公旦って、あの人が!?・・・・めちゃくちゃ嫌なヤツじゃない!」 は思わず顔をしかめる。 「さん知ってたんスか?」 四不象が聞いた。 「名前だけね。良い政治家だって聞いてたんだけど・・・」 その時、武吉が立ち上がった。 「姫昌様、周公旦様の言うとおりです。でもぼくなんかに気をかけて下さってありがとうございました!やっぱり姫昌様は素晴らしいお方です!」 武吉はそう言うと、大人しく、姫昌たち一行に付いていった。 「・・・すっごく健気で真っ直ぐな人みたい、あの武吉くん。ねぇ太公望、あのままじゃ武吉くん可哀相よね?」 「・・・うーむ・・・」 太公望たちは去っていった一行を空から見下ろしていた。 「・・・ぼくは明日死ぬのか・・・」 武吉は西岐城の中にある牢に大人しく入っていた。 時刻は夜。 牢の中に1つだけある鉄格子の付いた窓からは、大きな満月が望めた。 武吉は膝を抱え、壁に寄り掛かる。 「うん、死んじゃうね。このままだとね。しかも間違いなく」 いきなり声がした。 「・・・え、誰!?」 武吉は驚いて声のした方を見た。 「こんばんは、武吉くん」 窓からは1人の人物が笑顔で武吉を見ていた。 その顔には見覚えがある。 「あなたは・・・確か昼間お師匠様と一緒にいた人・・・・心配して来てくれたんですか!?」 武吉の表情が一気に明るくなった。 「私の名前は。太公望の妹弟子よ、宜しくね武吉くん」 「お師匠様の妹弟子様でしたか!ということは・・・ぼくの第二のお師匠様ということですね!?」 「いや、何でそうなるのかな・・・。師匠は太公望で十分でしょ?ねっ 太公望!」 とても楽しそうには横を向いた。 「・・・お師匠様!?お師匠様も来てくれたんですか!?感激ですーっ!」 「師匠はよせとゆうに。気色悪い・・・。大体わしはまだ道士だから弟子は取れぬ。おぬしになら、いい仙人を紹介してやっても良いぞ」 の横から顔を出した太公望は牢の中にいる武吉にいった。 「いいえ、仙人なら誰でもいいってわけじゃないんです!太公望という人の弟子じゃなきゃ意味はありません!!」 首を左右に振りながら、武吉は言った。 「最高のほめ言葉だと思います」 は感心したように言った。 「・・・なぜそこまでわしにこだわる?」 太公望が武吉に聞いた。 ふと、武吉の表情が少しだけ暗くなったような気がした。 「それは・・・ぼくのお父さんが仕事で朝歌に行ってた事に関係しています。お父さんは、朝歌で死にました。・・・・蛇の入った穴に落とされて・・・・」 「・・・それって、もしかして・・・」 「おぬし、薹盆を知っておるのか」 が言い、太公望が聞いた。 「あの時、朝歌の武成王に助けられたという人が数人いたんです。その人たちから聞きました」 武吉が言った。 「・・・・あれは、わしの不注意が招いた惨事だった。さぞ、わしが憎いであろうに」 言った太公望を、は黙って見た。 しかし太公望の言葉に、武吉は無言で再び首を左右に振った。 「みんなはお師匠様が悪いって言ってますが、でもよく考えると本当に悪いのは妲己です!そしてご主人様は悪い妲己から逃げずに立ち向かった偉い人です!ぼくも一緒に戦いたいんです! 平和に生きたいから!!」 言い終わると、武吉は俯いた。 「でも・・・それも出来なくなってしまいました。 ぼくは明日死にます。さんが言ったように間違いなく。もう覚悟も出来てるんです。・・・でも、老いて病弱な母を1人残すと思うと・・・・この先お母さんはどうやって・・・」 武吉はそこまで言うと、涙ぐんだ。 「・・・・・。・・・まったく・・・放っとけんのう」 太公望はそう言うと、宝貝を取りだし、牢の壁に向け、一振りした。 ふっと笑い、は太公望を見る。 ドンッ!! 「な、何だ何だ!戦争か!?」 「あ・・・・ぶ、武吉が逃げたぞ!!」 土煙が上がった牢の中から、兵士たちの声が聞こえていた。 見張りをしていた兵士だろう。 「あら、思った以上に大騒ぎだわ。このままじゃ武吉くん、脱走犯ね」 「そうっスよ!すでに死刑だったのに、それ以上罪を重ねさせてどうするんスか、ご主人!」 「それはわしが何とかする。武吉、こやつに罪人は似合わぬよ」 武吉を連れ出し、空へと逃げた太公望達。 さすがに子どもとはいかない体型の人間を3人も乗せるのは四不象も無理という話。 は自分の宝貝を使い、浮いていた。 「弟子は大切だもんね、師匠!ふ、・・・あはははっ」 が言った。 笑いの元が戻ってきたらしい。 「笑うなとゆうに!」 武吉は緊張の糸が切れたのか、四不象の上ですっかり寝入っていた。 戻 前 次 初執筆...2003,09,19 改稿...2005,04,21 |