「・・・あぁ。知ってるあの人。・・・そう、確か、えーと・・・申公豹。と、黒点虎ちゃん」 目の前に現れた人物と霊獣を指差して、は「でしょう?」と四不象を向いた。 四不象は頷き、 「さんも知ってるんスか?そうっス!あの人は最強の道士、申公豹さまっスよ!」 辺りに響きそうな声で、そう言った。 が、四不象のその言葉を聞いて、は一瞬ぴしりと固まる。 「・・・・・最強の 道士?」 2人の途 「さ、最強!?最強って最も強いって書く最強!?」 はかなりの狼狽えようで、申公豹を指差したままで言った。 「・・・さんは会ったことあるんじゃないんスか?」 どうしてそんなことを聞くんだ、四不象の表情はそれをありありと表していた。 「・・・・あるにはあるんだけど・・・」 四不象に言われ、「まさか」という面持ちで、は申公豹を見上げる。 最強の道士。 つまり、一番強い道士。 そんなを尻目に、申公豹は黒点虎から降りて、地に足をつける。 「――太公望」 地上に立った申公豹は口を開いた。 「2人の太子を朝歌に帰しなさい」 無表情で、静かに言った。 「・・・なっ・・・?」 「冗談じゃない!今帰ったらぼくらは妲己に殺されちゃうよ!」 申公豹に、太子2人が反論した。 が、 「黙りなさい。私は太公望と話をしているのです」 太子二人の反論は、申公豹には全く通用しなかった。 強い目で睨まれ、二人は押し黙る。 「・・・・怒ってる・・・怒ってるわね・・・・」 思いっきり太公望の後ろに隠れ、囁くようには言った。 「そ、その通りみたいっス。・・・ご主人、申公豹さまは御機嫌ななめっスよ・・・!」 「どういう事だ?申公豹」 太公望が聞いた。 そして申公豹はため息をつき、話し始めた。 「今、朝歌の民は悲惨な状況にあります。太子たちはそれにも関わらず自分たちだけ逃げようとしているのです。 私は気に入らないことは放置できないタチでしてね。太子の動向をずっと探っていたのです」 「・・・・しつこいタチね」 が呟いた。 「太公望・・・・それと」 申公豹は2人に言った。 「あなた達はそんな太子の愚行に手を貸すのですか。気に入りませんね。私の美学に反します」 申公豹の宝貝からは、小さな雷がいくつも発生しており、申公豹の周りを飛び交っていた。 パリパリと、弾けるような、電気特有の音がする。 「おっ・・・・怒ってるっスよ!もうダメっスよ!」 「・・・・・変なこだわり・・・。・・・ばっちり名前覚えてくれてるし・・・」 「・・・相変わらずわけのわからないこだわりを持った奴よ」 どうしよう。 どうやってこの状態を切り抜けようか。 「で・・・でも・・・帰ったって、ぼくらに何が出来るっての・・・!?」 「そうだよ!ほとんど助けてくれる人もいないんだよ!?」 それまで黙って話を聞いていた太子2人が、耐えきれなくなったのか口を開いた。 「両殿下、気に入りませんね。そのいつまでも人に頼ろうとする態度は」 しかし、そんな太子2人の言葉は、申公豹の怒りを煽るだけでしかなく。 申公豹は宝貝を太子2人に突きつけながら、続けた。 「しかも父親をも見捨ててきましたね。支配者の愚鈍さは必ず民に重荷となってのしかかります。太子がそれでは、たとえ妲己がいなくても殷は消滅するでしょう」 半ば呆れたような顔で、申公豹は太子二人を見据えている。 「・・・ではどうすればいい?」 太公望が言った。 申公豹は一息つくと、 「私が朝歌に連れて帰ります」 そう、キッパリと言った。 「・・・・連れて帰るってことは、あの黒点虎ちゃんに乗るってこと・・・よね。・・・ちょっと羨ましくない?」 「・・・・さん、そんなこと言ってる場合じゃないっス・・・」 小声でと四不象は言い合った。 「・・・・いやだ。ぼくらはまだ死にたくないよ!生き延びてやらなくちゃいけない事があるんだ!」 突然、太子の兄の方が叫んだ。 肩が震えている。 「兄さま・・・?」 弟が心配そうに、兄の服の裾を掴む。 だが兄の発言の意図は掴めていないようで、首を傾げていた。 「確かに、申公豹の言うことも一理ある。・・・だが、やはりわしは太子を見捨てぬ。それがわしの主義なのだ」 太公望は申公豹を見据えて、そう言った。 「・・・どっちもどっちね、四不象ちゃん」 「2人とも頑固者っぽい感じっスからね・・・」 もはや傍観者になりつつあると四不象は言った。 「甘いですね、太公望。あなたはこれからいよいよ錯乱していく紂王とも闘うことになるのですよ。その紂王の息子がその太子たちなのです。彼らはいつか父親のためにあなたと闘う日が来るのですよ」 申公豹は淡々と言った。 申公豹の言うことは、確実に的を射ている。 ここで太子二人を助けることは、必ず将来の国の動向に関わるだろう。 「たとえ助けたことがアダとなっても構わぬよ。わしは別に恩を売りたくて2人を助けるわけではない」 太公望がそう言うと、申公豹は先程のようにため息を吐き、そのまま黙った。 「・・・お言葉ですが申公豹、この人にあなたの言う常識は通用しないと思うよ。それにそれはあなたの一意見でしょう?だからきっとこの話し合いは」 「言いたいことは分かっていますよ。私もそんなことくらい承知の上で言っているんです」 おずおずと太公望の後ろから話に割り込んだを制して、申公豹は言った。 「そう、が言うようにまるで意見が合いません。これ以上話しても無駄でしょう」 「・・・・ではどうする?」 太公望は宝貝・打神鞭を構えながら言った。 ド ォ ン !! 申公豹が、自分の宝貝・雷公鞭を振り上げた瞬間、太公望との間に大きな雷が落ちた。 「もちろん、力ずくでいきます」 上げた腕を下ろさないまま、申公豹は言った。 「・・・・こやつに力でこられたら・・・」 「・・・・こ、これが最強道士の力・・・!や、ヤバイわよ太公望!本気で殺されるよ!?」 が太公望の服を引っ張りながら言った。 「あぁぁ・・・ご主人が殺されるっスよ・・・もしかしたらさんもっスか・・・!?」 その時、突如辺りが大きな光で照らされた。 申公豹の攻撃のせいではない。 何か別の、しかもとても高いところからの光。 「・・・・な・・・何・・・!?」 全員が、光の起こった方向を見た。 そこは太子2人のいる場所。 太子2人の体はその大きな光に包まれていた。 「「うわぁっ!!」」 太子2人の体は、その光に包まれたまま宙に浮いた。 どんどん上へと引っ張られるように上がっていく。 光は1つのトンネルのように空へと延びていた。 「これは・・・・原始天尊の仕業ですね!」 申公豹は空を見上げる。 「げ、原始天尊さま!?何で・・・」 「どういうことだ?」 と太公望も上を見上げ、言った。 『太公望、申公豹よ。この2人は仙人界が預かる事に決めた。双方とも宝貝をおさめるのじゃ』 太子2人が完全に空に飲み込まれてすぐ、声が響いた。 紛れもなく太公望との師、原始天尊の声だった。 響く声は空から。 申公豹の力が、消えた。 「・・・・黒点虎、帰りましょう」 「え?いいの?申公豹」 「太子がいないのに、これ以上ここにいても意味がありません」 その場が元の空気に戻るなり、申公豹は宝貝をおさめて黒点虎に乗った。 「太公望、。今日は原始天尊の顔に免じて身を引きます。あの浅薄な2人は仙人界で性根を鍛え直した方がよいのかもしれません。今よりはほんの少しましになるでしょう。 最後に1つ気にかかっていた事を聞きます。あなた達は紂王と両太子の名が封神の書にのっている事を知っていたのですか?」 「知っておった」 太公望が答え、も頷いた。 「・・・知ってて両太子を助けたわけですね。・・・では、彼らの母『姜妃』の魂魄が封神台へと飛んで行ったのは?」 太公望がの方を見た。 は無言で首を左右に振った。 「いや・・・・やはりそうなのか?」 「――封神計画には、まだまだ裏がありますよ」 申公豹は、そう言い残し、去っていった。 申公豹が見えなくなった時、太公望は封神の書を出した。 封神されるべき人物の名が全て乗っているはずの封神の書。 も少し前にこれを太公望から見えてもらっていた。 「少々は気付いていた。おかしいとは思っておったのだ。にはまだ言ってなかったが・・・・原始天尊さまは妲己と、その手下365名を倒せと言った」 「ちょっと待ってよ。だってこの書には180人くらいしか書かれてないじゃない」 が口をはさんだ。 「えっ?どういう事っスか?全然人数が合わないっスよ!」 「わしにも分からぬ・・・・。仙人界はわしらに何か隠しておる。仙道でもない姜妃が封神台へ・・・これはもしや・・・・」 太公望は呟いた。 「・・・・どうする?太公望」 「よし、崑崙山に戻るぞ!スープー!」 太公望が急に言った。 「ええっ!?ご主人、どうして急に!?」 「・・・・原始天尊さまに聞くんでしょ?」 「そうだ。確かめねば・・・このままでは腑に落ちないことが多すぎる」 太公望はいち早く四不象に乗り、言った。 「・・・それにしても何だか久しぶりね崑崙山が。前までは毎日飽きるくらいだったのに」 だんだん見えてきた崑崙山を見てが言った。 「そうだのう。おお、あそこにいるのは白鶴か?」 「え、どこどこ? あ、ホントだ。白鶴ー」 2人は崑崙山の中にある麒麟崖という場所に、見知った者を見つけた。 「師叔!さん!」 太公望が気付き、が呼んだ名の主『白鶴』。 名前の通り鶴で、ここ崑崙山で道士として修行に真面目に励んでいる。 太公望、とは大違いの道士だ。 真っ白い翼を広げ、二人を出迎えた。 「どうしたんですか?戻ってきたりして」 「封神計画に疑問点が出てきたのだ。その事を元始天尊さまに聞こうと思ってな。スープーよ、今日はおぬしの自由時間としよう。仙人界の清らかな空気で体を休めるがよいぞ」 白鶴に言ったあと、太公望は四不象に言った。 「や・・・休みっスか?」 「うむ!」 四不象の顔が一気に明るくなった。 「かたじけないっス!明日のお昼には必ず帰るっスよ!」 嬉しそうに、四不象は言った。 「じゃあ私もお言葉に甘えて。明日のお昼には必ず帰るわ!」 も元気よく言った。 「・・・・おぬしはわしと来るのだ」 太公望はの腕を掴み、言った。 「・・・・う、・・・やっぱり・・・?」 「さん、師叔譲りの怠け癖、相変わらずですね・・・。それはそうと、お二人の活躍は仙人界でも評判ですよ」 白鶴は言った。 「2人・・・?え、私も?・・・・私、まだ何もしてなくない・・・?」 は白鶴の言葉に疑問を抱き、言った。 「いいえ、さんももっぱらの評判ですよ。 普通に師叔と渡り合えるあなたの持ち前の頭脳は皆さんご存じですし。それにあの最強の道士申公豹と普通に会話し、あのナタクと出会って無傷だったんですから」 「何?おぬし、ナタクとも会ったのか?」 「・・・・ナタク?・・・・ナタク・・・。ああ、そういえば会ったわ。宝貝沢山持ってるあの子よね?」 以前、森の奥深くで出会った、赤い髪の少年。 沢山の宝貝を装備しており、 「そういえばナタクは仙人界へ来たのであったな。あやつは・・・まぁ元気であろう。楊ゼンやその他諸々は元気かのう?」 「元気すぎるほどですよ。謁見が済んだら彼らにも会ってやって下さいね」 太公望とに白鶴は言った。 「さぁ、着きましたよ。どうぞ」 白鶴は二人を振り向き、促した。 謁見の間。 大きな扉が3人を迎えた。 「・・・・相っ変わらず無駄にでかい入り口ねー」 が言った。 目の前には、自分の何十倍もあるだろう大きな扉。 元始天尊のいる『謁見の間』という場所への入り口だ。 そして、勝手にその扉は重そうな音をたてながら、開いた。 中では、太公望とが来ることが分かっていたのだろう、元始天尊は入り口の方を向き、待っていた。 「元始天尊さまが一番弟子、太公望。お聞きしたい事がありまして参りました」 太公望がまず言った。 「同じく二番弟子、。用件は太公望と同じです」 一瞬、緊張したような妙な空気が流れた。 「・・・お、おお、久しぶりじゃのう。そうだ、驚いたであろう?謁見の間を十二仙が改装してくれたのじゃ!」 辺りを指差しながら、原始天尊は明るい声で言った。 「「元始天尊さま?」」 太公望との2人が同時に言った。 「・・・うっ・・・。 お、おまえたちの人間界での仕事ぶりも聞いておる!頑張っておるようじゃのう!」 「元始天尊さま!」 太公望が思いっきり睨みながら再度言った。 「見苦しい話題替えですよ、元始天尊さま」 そんな太公望に、ため息をつきながらも言った。 「・・・・うー・・・」 「なぜ嘘をつかれました。返答次第ではこの計画から外させて頂く」 ようやく観念したような声を出した元始天尊に太公望はハッキリと言った。 「封神計画の事か・・・・。確かにわしは妲己とその手下365名を倒せと命じた。・・・それは嘘じゃ」 元始天尊は後ろを向き、続けた。 「おまえ達も既に気付いているとは思うが、この封神計画は想像以上に複雑なのじゃ。妲己1人を倒して済むのなら崑崙の総力を上げて攻撃するわい」 「でもそうして妲己が死んだとなると各地での反乱が一気に起こり大混乱に陥るから、でしょう?」 は原始天尊を見つめる。 「――その通りじゃ。だから混乱を防ぐために新たなる王者をつくる必要がある」 「最善なる候補は・・・西伯候姫昌」 太公望がゆっくりと言った。 「そうじゃ太公望。姫昌が王となるためには奴が妲己を倒さねばならぬ。でなくば、民が王と認めんからのう」 2人を連れてきた白鶴は、黙って話を聞いていた。 「太公望、!おまえたちはその頭脳を持って協力しながら姫昌に妲己を倒させるのじゃ!」 「双方に・・・かなりの死者が出るという訳ですね」 太公望が言った。 同時にが太公望を見た。 「紂王側と姫昌側が闘えば、一般の兵や民の多くが犠牲になる。それにプラスして妲己の手下や我々にも多くの死者が出るだろう。 太公望、おまえが出来る限り犠牲を少なくしようと努力しているのは分かっておる。その事にがあえて何も言わず従っている事も分かっておる。 だが・・・仙道のいない真の人間界をつくるには仕方がないのじゃ」 元始天尊に、太公望とは何も言わなかった。 「もう一つ、封神の書の事じゃが・・・現在予想出来る犠牲となる仙道と人間は180余名しか分かっておらん。残りはこの計画で死ぬ予測不能な者が入って会わせて365名になる予定じゃ」 「・・・ああ、だから姜妃の魂魄が・・・」 「封神台へと飛んだのですね?」 、太公望の順番に言った。 原始天尊は無言で頷いた。 「・・・・はぁ・・・」 がため息をつき、 「やれやれ・・・随分といい加減な計画だのう・・・」 太公望が言った。 「それでも封神を行うか?」 元始天尊が2人に聞いた。 「勿論ですよ。もう始まっている事です」 太公望はすぐに答えた。 「・・・は、どうなのじゃ?」 元始天尊、太公望、白鶴はを見た。 は少し考え、 「どうせ嫌だと言っても強制的にさせるんでしょう?それに、最後まで太公望に付いていくって決めたので」 笑顔で、そう答えた。 元始天尊は無言で頷いた。 「・・・うえー疲れたー・・・。あの人の話は昔から色々ややこしいから頭痛くなるわ!」 謁見の間から出てくるなり、頭を押さえながらは言った。 「さんは原始天尊さまの話を聞く度にそう言ってますが、それでも全て一度で理解するんですから凄いですよ・・・」 白鶴が言った。 は盛大なため息をつきながら、二三度深呼吸をする。 「・・・。おぬしは分かっておったのか?わしが、出来るだけ誰も封神せずに進んでいることに」 一番後ろを歩いていた太公望は、先頭にいたに聞いた。 は歩を止めた。 「あー・・・、うん、分かってたよ。だって、太子2人を殺そうとしたあの妖怪仙人2人のことも、あの時殺せたはずだし。わざとチャンスを与えて、あの2人が封神されないようにしたのよね? それに、もし太公望が純粋に封神計画を成功させようとしてるんなら太子2人を助ける理由なんてどこにもない。太子2人は封神の書に名前があるんだから」 「・・・やはり気付いておったか」 太公望がそう言うと、は再び前を向き、歩き始めた。 「太公望の行動は理解してるつもりだから、協力してるんだよ。伊達に何年も妹弟子やってるわけじゃないんだからね」 歩きながら、は言った。 太公望は黙って聞いていた。 「だから、太公望にはこの計画が終わるまでずっと協力します。そりゃ間違ってる事だったら協力なんかしてやらないけど、太公望はそんなことする人じゃないし。 誰1人味方がいなくなっても、私は付いていってあげるわよ」 安心しなさい、とは笑って、 「私も付いていきますよ」 白鶴も続けて言った。 「・・・わしは・・・良い理解者を持ったものだのう」 太公望が言った。 少しだけ、笑っていた。 「あったりまえじゃない!今頃気付いたの?ねぇ白鶴」 「はい!」 嘘偽りなど微塵もない笑顔で。 戻 前 次 初執筆...2003,08頃 改稿...2005,04,21 |