崑崙の道士のことは太乙や雲中子が、金鰲の妖怪たちのことは喜媚が地上へ連れて行くことにした。そして崑崙組も金鰲組も分け隔てなく全員で、崑崙山2で待機する、ということになった。四不象、武吉、天祥、の4人はみんなと別れ、燃燈や楊ゼンたちの後を追った。武吉と天祥は四不象の背中に乗り、は宝貝で飛んで、楊ゼンたちが入っていった入り口に入った。「入り口」と書かれたその穴は、闘技場の外の壁に、地味に存在していた。しかしその入り口の向こうに続く通路は、決して地味なんかではなく、太乙のいう「ハイなテクノロジー」の結晶ではないかと思えるほどのものだった。その通路では、も武吉も天祥も歩き、四不象は3人の少し上を飛びながら通路の出口を目指した。


「…あっ!」


突然、声を上げて武吉がその場に立ち止まった。びくっとしたは武吉を振り返る。


「ど、どうしたの武吉くん」


見ると、武吉はとても嬉しそうな笑顔で目を輝かせていた。


「お師匠さまの魂のにおいがします!」


「ほんとっスか!?」


「うん!」


同じように笑顔になった四不象に、武吉は頷く。
というか、魂のにおいなんてするんだ。とは思った。しかも、武吉はそのにおいの判別まで出来ると。しかし、そんなことに一々つっこもうという気にはならなかった。


「どっちからするか分かる?武吉くん」


「向こうの、出口の方からです!」


続く通路の一番奥、未だ遠い出口を武吉は指差した。


「行くっス!」


力強く言った四不象に3人は頷き、出口まで一斉に駆け出した。より足の速い天祥が、の手を引っ張って走った。


出口の向こうには通路は続いていなかった。開きっぱなしになっているらしい扉をくぐるとそこは、底の見えない大きな穴が広がっていた。上を見上げると、これも天井は見えなかった。地下の深い深い場所から、地上まで繋がる筒のようになっているのかもしれない。


「…あ、あそこ!楊ゼンさんたちがいます!」


出口から見下ろし、四不象たちのいるところから少し離れた下の方に楊ゼン、燃燈、竜吉公主の姿をみとめ、武吉が言った。


「行こう!」























































「楊ゼンさん、燃燈さん、公主さん!」


2人を背中に乗せ、四不象はその3人の名を呼んだ。も四不象の後ろからついていく。


「四不象!さんも!」


向かってくる4人の姿を視界に捉え、楊ゼンは少し驚いたらしく目を丸くした。楊ゼンたちの傍には、黒く大きな球体が浮かんでいる。


「ご主人は!?」


「ナタク兄ちゃんは!?」


「お師匠さまは!?」


四不象、天祥、武吉は一斉に楊ゼンに訊ねた。


「…えーと、ナタクはそこ」


楊ゼンは球体を指差す。


「四不象、いいところに来てくれた!私は至急異母姉様を崑崙にお連れせねばならなくなった。太極図を太公望に渡してほしい!」


左腕で公主を支え、燃燈はぐいと太極図を差し出した。見ると公主は息が荒く、顔色が青白い。盤古幡は燃燈に渡したらしく、燃燈の周りに浮いていた。


「私が預かります」


四不象の後ろから、は前に出た。を、燃燈はじっと見下ろした。


「先程のように、途中で放り出したりしないだろうな?」


「…しません。絶対に」


も強い眼差しで、燃燈を見つめ返す。数秒間、そのにらみ合いにも似た沈黙が訪れたが、やがて燃燈は諦めたように小さく息をついた。


「…信じよう」


そう言って、に太極図を渡した。


「ありがとうございます。先程はすみませんでした」


は笑顔になり、燃燈に頭を下げた。


「よろしく頼みますねさん。僕はナタクたちを上へ運ばないといけないし」


「あっ僕も行く!」


四不象から、天祥は球体の上へ飛び乗った。は、楊ゼンに「はい」と言って頷いた。


「じゃあさん、乗って下さいっス!」


「行きましょうさん!」


天祥が座っていたスペースが空き、は頷いて武吉の前に乗る。


「それじゃ、いってきます」


「いってくるっス!」


と四不象は楊ゼンや燃燈に告げた。天祥は球体の上から「いってらっしゃい!」と手を振った。


「武吉くん、太公望の居場所は分かる?」


「はい!ずっと下の方から魂のにおいが!」


「じゃあ、飛ばすっスよ!」


ぐん、とスピードを付け、四不象は急降下した。2人を乗せ、下へ下へと下りていく。ずっと下まで続く穴は、どこまでも同じ単調な光景だった。しかしきっと太乙にこれを見せれば、「ハイなテクノロジーだ!」と言いながら大喜びするだろうなとは思った。


「お師匠さま、やっぱり生きてたんですね!」


燃燈たちが、当然のように太公望に太極図を渡してくれと言ったことを思い出し、武吉は言った。「魂のにおいがする」とは言っても、やはり少し自信がなかったのだ。確かに太公望は闘技場で封神されたのだから。


「うん…何がどうなってそうなってるのかさっぱり分からないけど…」


「ご主人に問いつめなきゃならないっスね!」


そのとき進行方向に、出口らしきものが見えた。真っ暗でぼんやりした丸い穴が、段々大きくなっていく。


「あれが出口かな」


「そのようっスね」


四不象は一気にその暗い穴へ飛び込んだ。穴の中は真っ暗なのかと思ったのだが、一瞬だけ、まぶしさに目が眩んだ。


「…う、わぁ…」


の後ろで、武吉が思わず感嘆に似た声を上げた。も、そこの光景に目を瞠った。ずっと縦に続く穴ではあったが、それでも結構広いと思いながら今まで通ってきた場所とは比べものにならなかった。「広い」などという一語で一括りにまとめられるものではない。着いた場所には、一つの大きな都市が出来上がっていた。見たことのない建物が建ち並び、それらは一様に光を放っている。それぞれの建物からレーザーライトのような光の筋がいくつも上がっていて、人工物しかないはずのその場所が、どこか神秘的なものに見えた。


「何これ…地下の、都市?」


ここに女カがいるのか?そして太公望も。


「あ!さん四不象!あそこ!」


目も鼻も耳も良い武吉が、の後ろから乗り出して地下都市の建物群が立ち並んでいる一部を指差した。小さく人影が一つ見える。その人影の正面には、なんだかよく分からないものに襲われている人物の姿があった。


「いたよいた!お師匠さまだ!」


「ご主人ー!!」


四不象が目一杯、声を張り上げて呼んだ。一目散に四不象はそこ目掛けてスピードを上げる。そして、瞬間、四不象の体が光ったかと思うと、その姿はスープー族の変身後の姿へ変わった。そのまま、四不象はためらうことなく太公望のところへ急降下し、変な蛇のようなものに沢山吸い付かれている太公望を、それごと口の中に入れた。そして、もぐもぐと口を動かすと、太公望だけを器用に外へ出した。


「四不象、武吉、!よく来てくれた!」


変な蛇から解放された太公望は、ぱっと3人を振り返った。どういうわけか服装や感じが変わっているが、いま目の前にいるのは、紛れもなく太公望本人だった。


「…ほんとに生きてた」


ぽつりとは呟いた。ちゃんと分かる。太公望だ。良かった、本当に太公望は戻ってきた。


、太極図」


四不象に言われ、はハッと思い出し、慌てて太公望に太極図を差し出した。


「太公望!太極図、忘れもの!」


「おおっでかした!」


太極図を受け取り、太公望は四不象の背に乗った。


「どうだ女カ!これぞわしの最強装備!」


高々と太極図を掲げ、太公望は言った。は改めて、正面にいる女カに目を向けた。ワンピースとスカーフをその身に纏い、手足が異様に細長い感じがする。実際そうなのだろう。今までに見たことのない姿の人物だった。容姿は極めて人間に近いが、纏う雰囲気はたちとは全く異なる。常にぼんやりとした淡い光に包まれている女カは、それだけでどこか威圧的に見えた。


「あれが…女カ?」


あれが歴史の道標。


「そう、始祖の一人のな」


太公望が頷いた。


「始祖?」


耳慣れない言葉に、は首を傾げる。


「…あー、細かい説明は後だ」


女カの手元に光が集まり始めたのを見て、太公望はと武吉を少し後ろへ下がらせた。


「伏羲…いかに四不族が宝貝の力を食そうとも、太極図が宝貝の力を無効化しようとも、わらわの最強宝貝の前にはかしずくこととなろう」


女カの声は、さほど大きくないのにその場全体に響き渡るような声だった。女カの手には、大きな宝貝が現れた。こちらに構えたそれを見て、太公望の顔色がさっと変わる。


「あれは…四宝剣!スープー、バリアを張りつつ全力で逃げよ!」


「なんでだよアホ、攻撃を食ってやるぜ」


スープー族の大人には、宝貝攻撃はほとんど効かず、またその力を食べることが出来る。むっとして四不象は言ったが、太公望は首を振った。


「あれはそういうレベルの宝貝ではない、よいな、よけるのだぞ!」


四不象より少し高い場所に浮いている女カは、四宝剣を振り上げる。


「さらばじゃ!」


女カは声と同時に、宝貝を勢いよく振り下ろした。大きな光が四不象めがけて落ちてきたが、ぎりぎりのところでそれを避ける。


「そらぁ、かわしたぜ!」


危なかった、と四不象は内心安堵の息をついたのだが、安心できる暇はなかった。四宝剣の攻撃を受けた地下都市が大爆発を起こしたからである。爆風に煽られて、四不象はその空間の天井近くまで飛ばされてしまった。すぐ真上には、この地下都市に入ってくる際に通った縦穴に続く入り口が見える。


「うわー!地下都市がなくなっちゃいましたよ、お師匠さま!」


今の今まで沢山の建物が溢れていたそこは、今や火の海になっていた。全てが燃え上がり、熱気が上がってくる。


「何度も世界を滅ぼした宝貝だ。その出力は雷公鞭をもしのぐ…」


地下都市だった場所を見下ろし、太公望は太極図をぐっと握る。


「あな口惜しや、よくもわらわの一撃をかわしたもうたな…。じゃがかような幸運、二度とは続かぬぞえ!」


四宝剣が光を放つ。しかしそれを見て、太公望は笑いながら言った。


「よいのか女カ?あまりそれを使うと、この蓬莱島まで吹っ飛ぶぞ?」


ぴたりと女カは動きを止める。四宝剣の光も収まった。


「そうなればおぬしの本体は、遠い宇宙の深淵を漂うこととなり、二度と復活は出来ぬだろうな」


今は魂魄だけでしか動くことの出来ない女カが望むのは、本体の復活。蓬莱島は地球から遠く離れた場所にある。そしてこの蓬莱島がなくなってしまえば、それは同時に女カの本体が地球外で行方不明になることを意味し、女カは復活することも出来ず魂魄体のままで、いずれ力が尽きてしまうだろう。力が尽きる前に、女カは本体に戻ろうとしているのだから。


「ただし、わしだけは空間移動で地球に帰らせてもらうが」


突き放すように太公望は言った。驚いて、四不象は顔を上げる。しかし太公望は四不象の背中に乗っているので、その表情までは窺い知れない。


「もちろん崑崙の仙道も消えることになるだろうが、それは仕方あるまい。逆にそうしてくれた方が、地球は平和となるであろうからな」


今までにないような冷たい物言いに、武吉は不安になって太公望を見上げた。


「お師匠さま…?」


もじっと太公望を見つめる。太公望は真っ直ぐに、女カだけを見下ろしていた。


「…確かに、そちの言うことにも一理ある。じゃが、力を抑えた接近戦ならば何の問題もない!」


四宝剣は再び光を放つ。しかしその光は先程までの強いものではなく、淡く弱い。女カはその四宝剣を手に、四不象へ向かってきた。


「かかったな!」


太公望の正面に、八角形の陣が現れた。太極図から現れたものであるらしい。透明の四角い空間を造り出し、八角形の陣はお互い向かい合い、空間の天井と床に貼り付けられたようにしてある。女カはその二つの陣の真ん中にいた。


「まんまとハマりおった!太極図を持っておる今、わしとてただ逃げ回るだけではないわ!さっき気付かれぬようこっそりと陣をはっておいたのだ!」


言いながら、太公望は笑った。陣の中で、下手に動くことの出来ない女カは太公望を睨みつける。


「謀ったな!お得意の口車で、わらわを陣の入り口に誘い込んだのかえ!」


女カは四宝剣を握りしめる。そのとき、陣の天井辺りから、ちらちらと真っ白いものが降ってきた。


「…あ、雪!」


武吉が言って、は上を見上げた。空から降る雪のように、真っ白な雪が後から後から舞い降りてくる。女カの肩に雪が落ちた。瞬間、女カの肩が溶けるように消え、そこから白い煙のようなものが立ちのぼった。


「これは魂魄を溶かす雪だ。いかにおぬしでもかわせまい」


雪が触れた箇所がどんどん溶けていく。ちらちら舞い落ちるだけだった雪は激しさを増し、やがて吹雪へと変わった。


「やめてたも伏羲!やめてたもれ!」


女カは声を荒げたが、雪が止むことはない。女カの姿は、雪で溶けていく。声も途切れ途切れになっていった。


「伏羲…、伏…」


最後には、声はふつりと消え、女カの姿も消え去った。見計らったように吹雪は収まっていき、止んでしまった。


「…死んだの?」


四不象の頭の上で膝立ちのまま、両手をついて陣の底を覗き込み、は聞いた。


「うむ…消えたとは思うが…なんかまだ出てきそうな気が…」


そう言った太公望を見上げて、は目を見開いた。太公望の背後に女カがいたからだ。と一瞬だけ目が合った女カは、にやりと笑った。


「た、ぃ…!」


「わらわもほどほどに謀り上手なり」


女カは口を開けて太公望に襲いかかる。は太公望の手を掴み引っ張ったが、より先に女カの方が、太公望の首筋に噛み付いていた。


「お、まえ…!お師匠さまに噛み付くな!」


武吉が女カに拳を向けたが、武吉の拳は女カの体をすうと通り抜けた。驚いて武吉は手を引っ込める。女カの体は魂魄体であるために、物理攻撃は一つも通用しないのだ。


「太公望!」


女カが離れ、ふらついて姿勢を崩した太公望を、は支えた。


「大丈夫?」


眉をハの字にしては太公望の顔を覗き込んだ。


「…魂魄を、少し抜き取られただけだ。大丈夫だよ」


女カの噛み付いていた箇所を抑え、太公望は頷く。


「そちの魂魄、口に甘し」


「『分裂』か…!」


太公望は女カを見上げる。


「さっきわしが消したのは、おぬしの魂魄の一部であったか。やってくれたな女カ!」


「魂魄分裂は、そちのみの特技にあらず。消え去りしその一部もそちから吸収し補ったり」


女カは笑う。も女カを見上げた。しかし、の頭の中は分からないことだらけでぐるぐる回っていた。「始祖」にしても「伏羲」にしても「魂魄分裂」にしても、分からないことが急に沢山出てきたのだ。そもそも太公望がどうして戻ってこられたのかも聞いていない。しかし今はそんなことを悠長に質問している余裕などなかった。


「はてさて…」


女カが四宝剣をこちらに向けた。女カがいる場所は、極めて近い。血の気が引いて、は慌てて四不象に言った。


「危ない!四不象ちゃん、急いで逃げて!」


の指示と女カと、どちらが早かっただろうか。


「次はかわせぬぞえ!」


女カの四宝剣による攻撃が、その場を襲う。いくら力を抑えているとはいえ、凄まじい力だった。空中で起こった爆発の衝撃は、女カによる最初の手加減なしの攻撃によって破壊された建物群を、さらに崩すこととなった。


「…、スープー、武吉、大丈夫か?」


なんとか爆発全てを受けることは回避できたものの、それと同時に全てを避けきることは出来なかった。


「むっちゃ痛ぇ…」


背中で女カの攻撃を受けてしまった四不象は、絞り出すような声で言った。


「僕はもう治っちゃいました!」


驚異的な回復力を見せる武吉だけは、もう全快である。


「…太公望!なんで邪魔したの?なんで私なんか庇ってるのよ!」


が突然声を荒げた。驚いて目を丸くし、武吉はを見る。に言われ、むっと太公望は顔をしかめる。


「別にそうしようとしてしたわけではない!おぬしが無茶なことをしようとしたから止めたまでだ!」


太公望の頭から一筋血が流れてきて、頬を伝ってぽたりと落ちた。女カの攻撃によって受けた傷だった。それを見ては体を強張らせたが、すぐにキッと太公望を睨む。


「何が無茶よ!やってみないと分からないじゃない!」


そして負けじと言い返した。今し方、女カが四宝剣で攻撃しようとしたとき、は四不象に逃げるよう指示を出すと、あろうことか四宝剣と対峙するように女カの正面に立って宝貝を構えたのだ。それに気付いた太公望はすぐにの腕を引っ張り、女カから遠ざけた。咄嗟に太公望は盾になる格好になり、は右腕に傷を負うだけという軽傷で済んでいた。


「いいや分かる!あれをどうにか出来るほどの力は、おぬしには無い!こんなところで無駄死にするつもりかおぬしは!?」


力が無いのだ。はっきりとそう言われ、は何も言い返すことが出来なくなってしまった。太公望も、自分の言った言葉の内容に気付き、はっと表情を弛めたが、訂正することも付け足すことも、何もしなかった。


「お師匠さま…さん…」


心配そうに武吉は二人を見つめる。


「おい二人とも…喧嘩してる場合じゃねえんじゃねぇか?」


崩れた建物が上げた濃い煙の向こうに、女カの姿が見えた。こっちに近付いてくる。


「あ!またあいつが来ます!」


武吉が女カを指差して言った。太公望はから目を離し、正面を向く。


「逃げるぞスープー!」


「…何言ってんだよ!オメーあいつを倒すんだろ!」


「えーい黙れ、あいつの攻撃は痛くてやなのだ!」


曲げようとしない太公望に、四不象は渋々従うことにした。


あれをどうにか出来るほどの力は、おぬしには無い!
太公望から言われた言葉が、これほど突き刺さるように残るなんて思わなかった。別に、自分には特別に強い力があるなんて思ってはいなかったし、今でも思っていない。でも本当は、どこかで、それくらいの力はあると思っていたのかもしれない。「守りの宝貝」を持っているのだから、みんなを守れるくらいの力はあるはずだ、と。
驕りもいいところだ。結局、最終的な敵である女カに対抗できるような力は、持っていなかったのだから。


だけど、とても悔しい。悲しい。太公望の力になりたいと思って、封神計画に荷担したのに最終的には何も出来ずに終わってしまうのだろうか。封神計画のために残された明永仙姑という人を、この体のどこかに眠らせたまま、私は一体何をしているのだろう。
私に出来ることをしたい。今の私に出来ること、そうだ、明永仙姑の力を目覚めさせたい。封神計画のために、女カと戦うために残された明永仙姑の力は、必要なものなのだ。強い力を持つという彼女に、全部、差し出せばいい。


それで、大切な人を守ることが出来るのなら。


そのとき、ぐん、と誰かに体全体を後ろから引っ張られたような気がした。そして、太公望の指示通り女カの攻撃を避ける四不象と、四不象に指示を出す太公望と、その隣にいる武吉の声や姿、風景が、何か薄い布をかけたように遠くなった。声が、音が遠い。風景が、白いもやがかかったように霞んでいる。


「…太公望…」


後ろから呼ばれ、太公望はを振り返った。瞬間、が真っ白い光に包まれた。どこかからの光がに反射したのではなく、自身から放たれた光だったように見えた。すぐにその光は収まる。


「…ごめんなさい」


ごめんなさい、あんなことを言って。あんなことを言うつもりはなかった。庇ってくれてありがとう。ただ、自分のせいで太公望が怪我したことが悔しくて、自分の非力さがあまりにも悲しかった。


…!?」


さん!」


の体は、まるでスローモーションのようにゆっくりと、慌てて駆け寄った武吉へと倒れ込んだ。


































      



2006,8,28