平原の中に、一つの関所。 その前には長蛇の列。 朝歌から逃げてきたってところだろう。 そりゃそうだよね、あんなにひどい所ないもの。 西岐の方が豊かだって噂で聞いたな、そう言えば。 は思った。 そして、あの関所の前に居るのは・・・見間違いなんかじゃなければ、武成王さん。 いや、別におかしくはない、こんな所にいたとしても。 ここはまだ朝歌の領域なのだから。 ・・・ただ、その武成王さんの足下に・・・人が居るのだ。 居るっていうか転がってるっていうか。 その「人」が、思い切りの関心を引いたのだ。 深呼吸をして、いったん目を瞑り、心を落ち着かせてもう一度見る。 ・・・見間違いなんかじゃなければ、あれって・・・・ ・・・・太公望? 再会のシナリオ 「・・・・バカだよねぇ」 「ふふふ・・・・何を言っておる、これは作戦だぞ?四不象おぬしも修行が足り・・・って!?」 「そうです、です」 「な・・・何でこんな所に・・・?というかそんな傍観しておらんで、この縄を解いてくれんか?窮屈で」 「ねぇそれより、あれって武成王さん?」 目の前には、朝歌と西岐の境目にある臨潼関という関所。 関所の入り口には長蛇の列で、入り口の所に立ってる人物は・・・たぶん、武成王さんだと思うんだけど。 一度、朝歌で会った。 太公望の横で座り込んだまま、はじっと武成王を見つめた。 しかしもしあの人が本当に武成王なら、なぜ太公望はこんなところで捕まっているのだ? 武成王は味方になってくれたはずでは・・・。 「あぁ、あれか・・・・。あれは楊ゼンだ」 「・・・ようぜん。・・・なるほど、ようぜんね」 「・・・・本当に分かったのかおぬし・・・・?」 「・・・・」 ようぜん・・・・聞いたことはある・・・・ような。 どこかで。 とにかくあれは武成王さんじゃない、と。 え、でもそれってどういうことかしら。なんで武成王さんに似てるのかしら。 ますます分からなくなって、は頭を抱えて悩み始めた。 その時、関所の所から何かがこっちに向かってくるのが見えた。 あ、あれってもしかしてもしかして・・・・! 内心の喜びを顔にも表し、は見つめる。 そして勢いよく、はその場から立ち上がった。 「ご主人ー!居た人はみんな関所を通過したッス・・・・って、どちら様っスか?」 「わー!四不象ちゃんだ!本物!」 は歓声を上げた。 顔いっぱいの笑顔。 「おお四不象、ご苦労だったな」 地面に転がったまま、太公望は言う。 そしてと四不象を順に眺めると、 「おぬしらは初対面であったな。何故かの方は知っておるようだが・・・、自己紹介をしておけ」 確かに初対面だ。 こうやって向かい合うのは。 は一方的に四不象を知っているだけ。 「はじめまして四不象ちゃん!太公望の妹弟子にあたるって言います。宜しくね」 嬉々として、は右手を差し出した。 「ご主人の妹弟子だったんスか。こちらの方こそ宜しくっスさん」 そう言って、四不象は笑顔でと握手を交わした。 うわぁやっぱり可愛いわ、四不象ちゃん・・・霊獣って可愛いわ。 は笑顔で四不象を見つめていた。 そんなを疑問に思ったのか、四不象は首を傾げてを見る。 道士になって、太公望の妹弟子になって、人間界に降りてきて良かった・・・! 「ありがとう元始天尊様!そしてありがとう太公望!」 太公望の体の横に両手をついて、は言った。 「な、何がだ・・・!?大丈夫か、おぬし・・・?」 太公望は異様な顔をしてを見つめた。 嬉々として、もはやは四不象しか見ていない。 しかし、ふと太公望に目を向けて、 「そういえば太公望、なんで捕まってるの?人間界に捕まりに来てるわけ?」 笑顔のまま、そう一言。 「うっ!さらりと核心を突くことを・・・!」 「さんはご主人が朝歌でも捕まったこと、知ってるんスか?」 自分とはいま初めて会ったのに。 疑問だ、という顔で四不象は尋ねた。 そういえば、と太公望もを見る。 「そっか、太公望と四不象ちゃんは知らないんだよね。そうそう、朝歌で太公望の服の切れ端を穴の中に入れたのって私だから。 一応、太公望のこと助けたんだよ私。太公望は気失ってたし、四不象ちゃんは術に掛かっちゃってたから知らないよね、そりゃ」 実際に助けてくれたのは武成王さんなんだけどね。 あはは、と笑いながらは言った。 そう、そのとおり。 実は一度、朝歌で太公望とが再会していたことなど知らないのだ。 知っているのは武成王だけ。 そこで、は「あれ?」と思った。 「・・・なんで武成王さんは太公望がこんなふうに捕まってるのに何も言わないわけ?」 ふと湧いた疑問。 もう先ほどの会話の内容など覚えていないようで。 「いやだから・・・あれは武成王ではなく、楊ゼンで」 太公望が言いかけたそのとき、人が一人もいなくなった関所の前で、武成王の姿が急に揺らいで別の人物に変わったのをは見た。 「・・・あ。・・・あぁ!分かった分かった、“楊ゼン”ね!思い出した、天才道士って言われてるあの!」 仙人界で唯一、術を使って変化をすることが出来るというあの道士か。 そこでようやく合点がいった。 なるほどなるほど。 は一人、頷いた。 「・・・あなたは・・・元始天尊さまの二番弟子の、さん・・・ですね?」 いつの間にか増えているメンバーに少し動揺したようだったが、の顔を見るとすぐに、にこりと笑顔になって楊ゼンは言った。 「こんにちは、楊ゼンさん。確か一度、お会いしたことありましたよね」 たしか、元始天尊さまのところに来たとき、一度だけ見かけた。 話こそしなかったものの、目が合い、小さく会釈を交わしたのを覚えている。 「はい。あなたも人間界に来ているとは聞いていましたが、ようやく師叔と再開できたんですね。良かった」 元始天尊から聞いていたのだろう。 それにしても、天才道士と言われている彼までも来てくれるなんて、やはり壮大な計画のようだと、は改めて思った。 確かにそれはそうなのだが。 妲己などという、恐ろしく強い仙女を倒そうという計画なのだから。 でも楊ゼンほどの人材が出てくるなんて、崑崙山総出でもするのだろうか。 「・・・それでは、僕はこれで」 突然、楊ゼンは切り出す。 「え?え、楊ゼンさん一緒に行かないんですか!?心強いのに!」 がっくり、は肩を落とした。 「えぇ、もう少し仙人界で技を磨いてこようと思いまして」 「十分だと思うんですが・・・」 言うに、楊ゼンは首を左右に振った。 「いいえ、やはり師叔やさんのちゃんとした助けになりたいですしね」 太公望は何も言わず、だが表情は笑っていて。 「ではまた、近いうちにお会いできるように頑張ってきます」 そう言って、楊ゼンは踵を返すと颯爽と歩いていった。 は「頑張ってくださいねー」と、楊ゼンの後姿を太公望、四不象と共に見送った。 「さて太公望、これからどうする予定?せっかく再会したんだから、お祝いでもする?」 にこにこと笑いながら、は言った。 右手では、引っ切り無しに四不象の頭を撫でている。 「ふさふさで気持ちいい」と今しがた呟いたばかり。 「うむ、とりあえず、今から西岐に向かい諸侯の姫昌に会おうと思っておる」 「地道に味方探しね」 太公望は頷いた。 「生半可な気持ちでは、この計画には臨めぬようだからな」 味方は多ければ多いほうが。 大きければ大きいほうがいい。 「そうね。・・・じゃ、目指すは西伯侯姫昌!さっそくだけど乗っていい?四不象ちゃんに乗っていい?」 「良かろう、別に」 何を尋ねておるのだ? と太公望は首を傾げる。 「どうぞ乗ってくださいっスさん」 太公望と四不象のその一言で、は満面の笑みを浮かべ。 「わーっ!四不象ちゃんの背中ー!よし行こう四不象ちゃん」 「了解っス」 「は!?おい待てわしを置いていくな!」 「うそうそ、冗談よ」 と一緒に笑いながら、四不象は下降する。 そして、2人を乗せた四不象は、風をゆっくりと切りながら、臨潼関の中へと入っていった。 戻 前 次 初執筆...2002,12頃 改稿...2005,03,04 |