朝歌を離れて早・・・・どれくらい経ったのかは忘れたけど・・・・

いまだ、太公望と会えず。


挫けそうになる気持ちを抑えて、今日も太公望探し。

何故こんなに会えないのか。

何故、原始天尊は自分と太公望をバラバラに人間界に送り込んだのか。

何が目的だ?

聞いても答えてくれそうになかったし、とりあえず今は太公望を探さなければ。
















道のりの途中で

















「あーあ・・・疲れた・・・」


それほど深くもない森の中。

川の流れる音に引き寄せられて、その川の岩場に腰を下ろした。

さらさらと流れる水が綺麗。

魚でもいないかな、と少し目だけで探してみたが、これほど透明度の高い川の中だ。

岩場の陰か、そうそう目に入らないような場所に隠れているだろう。

は小さくため息をついた。

本当にどうして私はこんなところにいるんだろう。

太公望のために自分が何か出来ることがあるのだろうか?

どんなに考えてもよく分からない。

太公望よりは修行日数も少ないのに。ほんの少しだけれど。

私が暇そうだったからかな。

は思った。

確かに・・・暇だったけど。

毎日毎日、同じことの繰り返しで。人間界の事情などに首を突っ込むことも許されず。

だから、人間界に行けと言われたときは少しだけ「やった」と思った。

しかし原始天尊がそんな自分の心の中を知っているはずはない。

だったら、どうして。

宝貝も戦闘用というわけではないし・・・。

以前に何回か、原始天尊さまに内緒で人間界に降りたことがばれた罰、だとか?

いや、それなら私と太公望だけじゃなくって、白鶴や普賢だって同じように










ズ ド ン !!













「わっ!?」


突然、耳を劈く音。

驚いて、咄嗟に声が出てしまった。

衝撃で地面や周りの樹木や、座っていた岩も揺れた。

すぐに収まったが。

変わらないのは川の流れだけ。

たんたんと左から右へ流れている。


「・・・な、何?」


なんでこんな場所で爆音みたいなものが轟くのか?

音がした方へ、は走った。

見ると木々の間から、衝撃音の発生源でありそうな場所から砂煙が上がっているのが見えた。


とつぜん、広い場所に出た。

木立に阻まれていた陽の光が、邪魔されることなくの頬に当たってくる。

しかしそこは、自然に出来た広場ではなく。



「・・・なにこれ」



どうして。

どうしてこんなに木が倒れてるの?

何が起きたの?

たくさんの、倒れた樹木。

太く大きな木から、その大木の陰でひっそりと育っていたらしい細い木まで。

直径5メートルほどだろうか。

なにかの衝撃で、一瞬にしてこれらの木たちは幹を砕かれ、なぎ倒されたのだ。

なんだろう?

心当たりがあるとすれば――


「・・・宝貝?」


だろうか。

そのとき、後ろに何かの気配を感じ、はパッと振り返った。

木々の間から、人影が出てくるところで。

その人物は、浮いていた。

姿形は、10代前半か半ばほどに見える男の子で。

綺麗な赤い髪をしていた。

そして彼はの姿をその目に見留めると、


「・・・おい、おまえ。オレの父お・・・李靖を見なかったか?」


おもむろに言った。


・・・はい?りせい?

誰ですかそれは。

いや、それよりも、には目に付いたものがあった。

じっと見つめる。


宝貝。

この子ども、宝貝を身につけている。

まぁしかし宝貝など見慣れたものだ。別に驚くことはない。

だが、その数に問題があった。


3つだ。

3つも付けている。

こんな子どもが。

いや、もしかすると子どもの姿格好をしているが年齢はけっこうな歳なのかもしれない。

自分や太公望などのように。

しかしどうもこの子どもからはそんな感じを受け取れなかった。


「おい!聞いているのか!?」


答えずにじっと見つめるだけのにしびれを切らしたのか、その少年は叫んだ。


むっ


「ちょっと!なんなのその態度は?人になにかを尋ねるときは、それなりの礼儀ってものがあるでしょ」


ビシ、とは少年を指さして言った。

するとその少年は驚いたように目を見開いてを見た。

何も言わない。

実際、驚いたのだろう。


「誰かを探してるの?探すの手伝ってあげようか。私は。あなたは?」


宙に浮かんだままの少年に近づきながら、は尋ねた。


「・・・ナタク」


その少年は、の問いかけに小さく答えた。


「そう、ナタクね。見た限りでは仙人界に関係してる人のようね、宝貝持ってるし・・・。崑崙?それとも金鰲かな」


仙人界。

宝貝。

その言葉を出した途端、その少年、ナタクの顔色が変わった。


「・・・おまえ、仙人なのか?」


を警戒するように、両拳を握りしめ、真っ直ぐに睨む。


「え?ええと仙人っていうか、まだ道士なんだけど・・・。私はナタクのこと知らないし、ナタクも私を知らないようだね。
 ってことは、ナタクは・・・金鰲、出身?かな」


金鰲出身の仙人って言ったら、全くと言っていいくらい会ったことないから分かんないのよね。

交流がないから。

は少し躊躇いながら言った。

しかしナタクは無言のまま。


「・・・?あの、」


「いや、もういい」


の言葉を制して、ナタクはその場所からさらに高くに浮いた。


「はい?」


なに、もういい?

・・・なにが?

そんなの疑問も吹き飛ばすように、ナタクは何も言わず、木立の中へ消えていった。


「・・・なんだったの?」


ポツン、と取り残された。

戻ってくる気配もなさそう。

本当に。

何だったの。

私が道士だと、何か問題が?

逃亡でもしてきたのか。


「・・・・ま、良いか」


とにかく行こう。

「もういい」なら、もういいんだろう。

早く太公望に会わなきゃだし、早く四不象ちゃんに会いたいし。


「ふふ・・・待っててね」


四不象ちゃん。

は小さく呟いて、勢いよく歩き出そうと



!」



後ろから急に呼び止められた。

思い切り踏み出そうとしていた右足が、宙をさまよってしまう。


え、誰。こんなところで。人間界で。人間界に知り合いなんていないはず。


はパッと後ろを振り返った。

そこには


「・・・た、太乙さん!?」


「や、。久しぶりだね」


爽やかな笑顔で手を振る太乙真人が立っていた。


「太公望の後追うように命令されたって風の噂で聞いてたけど、こんなところで一人なんて、もしかしてまだ太公望とは会えてないのかい?」


図星。


「・・・う、うるさいな。太乙さんこそ人間界に降りてきて何してるんですか?宝貝の発明か何かですか?」


は日頃の太乙の行動を思い返しながら言った。

毎日毎日、宝貝の発明に明け暮れて。

宝貝マニアというあだ名まであるほど。


「うーん、まぁ似たようなものだけどね。
 ところで。一人で暇なら、あそこまで連れて行ってくれないかい?」


きみの宝貝って空飛べるよね。

そう言って太乙が指さしたのは、高い高い岩山の一つ。

さっぱりわけが分からない。

怪訝な表情を顔いっぱいに広げ、はその岩山を見つめた。


「・・・あんなところで何するんですか」


「まぁまぁ、先輩へのボランティアだと思って」


ね!

パン、と太乙は顔の前で両手を合わせた。


「・・・良いですけど。でもどうやって連れて行けば良いんでしょう?二人でなんて使えませんし」


羽衣の宝貝。

確かに空は飛べるけど、二人で浮くなんてことは無理。


「うーん・・・じゃあさ、その宝貝貸してくれるかい?上まで行ったらそこから返すから」


「え?返すって・・・投げて返すってことですよね?破れたらどうするんですか、岩場に当たって。
 ていうか太乙さん、羽衣使うんですか?羽衣ですよ?笑っちゃいますよ私!」


「・・・意見が正直になってきたね・・・。
 返すっていうのはさ、私の宝貝『九竜神火罩』に入れてから返すから。そうすれば安心だろう?」


太乙の宝貝「九竜神火罩」。

防御用宝貝で、仙人界でも最硬と言われている。

らしい。

使用者の意のままに操れるので、標的を中に閉じこめることも出来る。


「・・・まぁ、それなら。良いですよ」


そう言って、は宝貝を渡した。

「ありがとう」と一言お礼を言うと、太乙はふわりと浮いて、あっという間に岩山の上までのぼった。


そういえば太乙さんって、高所恐怖症じゃなかったっけ。


そんなことを考えていると、上から九竜神火罩に入れて太乙は宝貝を返してくれた。

岩山は高いため、太乙の表情は全く見えない。

覚え違いじゃなく、本当に太乙が高所恐怖症だったら、間違いなく怖いはずなのだが。

なんか上から「怖い、やっぱり降りたい、やっぱ降ろして!」なんて聞こえてきてるような気がするけれど。

気のせいということにしておこう。

行こう。


そういえば、太乙さんは太公望には会ってなかったのかな。

太公望のことは・・・何も言ってなかったな。

まぁ会ってたら教えてくれただろうし。

良いか。


「さて、行きますか」


ふう、と一度大きく息をつくと、は再び歩き始めた。
















      





さりげにちょっとひどいさん。



初執筆...2002,11頃
改稿...2005,02,16