「・・・さん、あの」


「私も行きます」


「・・・行くって、どこに」


「金鰲島」


「・・・・」


「一人より二人の方が何かと便利だと思いません?ついて行きます」


「僕、今から金鰲島に行くって言いましたっけ?」


「でも行くんでしょう?」


「・・・・」


「楊ゼンさんが行く理由は一つ。金鰲島のバリア装置の破壊」


「・・・もし僕が裏切り者で、今から金鰲側へ行こうとしてる、と言ったら?」


「それはないです。楊ゼンさんは味方です」


「・・・どこからそんな自信が」


「楊ゼンさんは崑崙側です。楊ゼンさんが「自分は崑崙側だ」って思ってる限り、楊ゼンさんは崑崙の道士なんです。そう思ってるって分かるもの。
 私だってそうです。どんなに崑崙が窮地に立たされていて自分の身が危なくても私は崑崙の道士だし。
 金鰲島の方が圧倒的に有利だけど、金鰲島に行こうとは思わない。私は崑崙山とみんなが好きですから」
































みちしるべ

































折れたのは楊ゼンだった。

どんなに言っても引きそうにないに、楊ゼンはため息をついて


「・・・・分かりました」


と、苦笑気味に言った。


「よっし、じゃあ行きましょう楊ゼンさん」


嬉々としては金鰲島を向く。

だが、ここで問題が一つ。


「・・・ですがさん。僕はあの宝貝ロボに変化出来るから良いとしても、あなたはどうします?」


あぁそういえば。

と、は考え込んだ。

どうしよう。

変化なんて出来ないしかといってこのまま特攻するのは得策ではない。


と、はパッと閃いた。


「楊ゼンさんは変化するんですよね?あの宝貝ロボに」


尋ねたに、楊ゼンは「ええ」と頷く。


「だったら、楊ゼンさんが変化した宝貝ロボに私が乗れば解決です」


ナイスアイディア。

とでも言うように、は笑顔で楊ゼンを見上げる。


しかし突拍子もない考え。

楊ゼンは一瞬、呆気にとられたが、


「よく思い付きますね、そんなこと」


笑って、同意した。












「――やはり金鰲島のバリアは、このメカなら出入り自由らしいですね」


楊ゼンの変化した宝貝ロボ。

ロボは見事にバリアを通過でき、格納庫のようなところまでやって来た。

金鰲の仙道たちも、まさか敵がロボに扮して潜入して来るとも思わなかったらしい。

特に一台一台の検査をすることも、中を見ることもなく、楊ゼンの変化したロボはその倉庫へと移された。

を乗せたまま。


そこへ着いてすぐ、はロボの出入り扉を開けてそこから降りた。

そして楊ゼンは変化を解く。

静まりかえっている格納庫の中、二人分の会話。


「・・・楊ゼンさんは、以前に金鰲島に来たことがあるんですか?」


「どうしてです?」


「だって、来たこともないところに、単身で侵入しようなんて・・・普通考えないですよね?」


右も左も分からない敵地。

みすみす命を放り出すような真似、楊ゼンがするだろうか、とは思った。


「・・・50年前に一度だけ」


「あ、やっぱり。50年前・・・って言ったら私、まだ20代だわ」


若いわ。

一人納得しながらは言った。

そして、それ以上のことは何も聞かず。


「道案内、よろしくお願いしますね楊ゼンさん」


笑顔で言う。

つられて楊ゼンまで笑顔になり、頷いた。


「あ、そのまえに・・・太公望に連絡しときましょうか」


言って、はどこからか紙とペンを取り出した。

楊ゼンは首を傾げる。


「連絡って・・・連絡するんですか?」


どうやって。

訝しがる楊ゼンに、はにこりと笑って


「ま、見ててくださいよ。そうだ。楊ゼンさん、太公望に言いたいことあります?」


ペンを手先で器用にくるくると回しながらは尋ねた。

そして広げた紙を、壁にくっつけてすでに何か書いている。


「言いたいこと・・・そうですね・・・。『僕とさんは二人で力を合わせて頑張っています』とか」


「あはは、何それ、そのまんまですね」


笑いながら、はさらさらと紙に書いた。

書いた内容はこうだ。


『太公望へ。
 今 楊ゼンさんと金鰲島のバリア装置を破壊しに行ってます。見守っててね。
 僕とさんは二人で力を合わせて頑張っています。楊ゼン』


楊ゼンにも見せて、はそれを折り始めた。

慣れた手つきで折っていき、出来上がったものは紙ヒコーキ。

「またどうして」という表情で、楊ゼンはそれを見つめる。


するとは紙ヒコーキを左手に、右手には自分の宝貝を持って、宝貝の先を紙ヒコーキに当てた。

ふわり、紙ヒコーキは宙に浮く。

の宝貝の、風の力。

風をまとい、ふわふわとの目線の高さで浮いていて。


「崑崙山・太公望のところまで」


そう言って念じるように目を閉じ、はもう一度紙ヒコーキに宝貝の先端を当てた。


ふわ。

それはの目線よりも上へと浮き上がった。

そして、紙ヒコーキは意志を持っているように、空気の中を流れ始めた。

だんだんと楊ゼンから離れていく。

ふわふわと、風に乗って飛んでいるよう。

しかしそんな風は吹いていない。

宝貝で作り出した風だろう。


「・・・どう、なってるんですか?」


飛んでいく紙ヒコーキを指さし、楊ゼンは尋ねた。


「真っ直ぐに崑崙山へと向かう風を宝貝で作ったんです。今、私たちが来た道を辿って行くはずです」


うまくバリアを突き抜けてくれると良いんだけど。


「でも通天砲はバリアを突き抜けて崑崙山まで来ましたしね。このバリア、中からだったら突き抜けられるようになってるのかも」


願望を交え、は言った。

それと、高いところへと浮かせて崑崙山へ向かわせたのは、高いところの方が目につきにくいから。


「ちゃんと届くかどうかは自信ないんですけどね、最近思い付いたものだから・・・」


だから、ちゃんと届けば一石二鳥。

太公望に、楊ゼンとが金鰲島にいて行動しているということを伝えられる。

の新しい技が、ちゃんと使えるということも確認できる。


紙ヒコーキを見送って、今度は楊ゼンが切り出す。


「では、バリア装置を破壊しに行きましょう」


「はい」とは楊ゼンの後に続く。

だが、ふと楊ゼンは足を止めた。


「通天砲を撃たせないよう、金鰲の仙道たちの目を引きつけておいた方が良いですね」


「あぁ、そういえば」


通天砲の破壊力は絶大。

あれが再び崑崙山へ向けられることも阻止しなければ。


「ここは僕が」


言って、楊ゼンは両手の平を、何かを掬うように前へとかざした。

一瞬、楊ゼンの両手が歪む。

そして新たなものが出てきた。

小さな、機械のようなものが4つ。

見覚えがある。

は感嘆の声を上げた。


「わあ、これってあれだ。あの、魔家四将のときの!」


確か、花狐貂という名前だったか。

鯨のような形で、今は小さいが大きくなる、宝貝ロボ。

部分変化で楊ゼンが出したのだ。

楊ゼンはその4つの花弧貂を、二人のいる回廊から外へと放り投げた。

投げられて外に出たのが合図のように、途端に花弧貂は巨大化していく。

花弧貂がすることは、どんなものでも飲み込んでいくこと。

花弧貂は、中身は空洞になっていてそこに消化液のようなものがたっぷりと入れられている。

いくら飲み込んでも次々と中で溶けていっているのだ。

敵の要塞やや城などを壊すことにはもってこいの宝貝。

早速、花弧貂は活動し始めた。


「さ、行きましょう」


楊ゼンは、変化で翼を作り出し、宙へ浮いた。

も、さっと宝貝を羽衣型に変え、楊ゼンに遅れないように飛んだ。


回廊を抜け、とても広い場所へと二人は出た。

そこにあるのは、宙に浮いた、沢山の大きな球体。

上にも下にも、右にも左にも浮いている。

計ったらどれくらいの広さなんだろう、とは思った。

それほどに広い場所。

こんなに広くて大きいものが空に浮かんでいるのだ。

崑崙山なんて比じゃないほどだ。


「・・・どこに行ったら良いんでしょう?」


は尋ねる。


「まずは中枢部への入り口を探さないと・・・」


辺りを見回しながら、楊ゼンは言った。

バリアの解除装置。

急がなければいけない。


と、そのとき


「・・・あら?・・あれ、何かしら」


は首をひねって、正面にある違和感を見つめた。

なにか変なものがある。

楊ゼンもすぐにそれに気付く。


ヒビ、のようなもの。


普通に壁にはいっているヒビならば、そんなに気になることもない。

だがそこは壁ではなかった。


空間。


近くにある球体、遠くにある球体、そんなものが一切関係なく、そこにあるものを巻き込んでそのヒビは入っている。

まるで、見えない壁がそこにあるように。


するとそのヒビは、音をたててピシピシと広がり始めた。

割れていく。

空間が。


「・・・わ、な、何これ」


「空間が・・・割れる?」


バリン


ついにヒビは、見えない壁を壊した。

今まで目の前に広がっていた向こうが、一枚の壁となって落下していく。

「空間の壁」は、砂の上に落ちて行っている。

楊ゼンとは気付いた。

いつの間に、こんな砂が。

そして、落ちた「空間の壁」は砂へと飲み込まれていった。

流砂のように。


なくなった今までの空間。

代わりに、別の景色が現れた。

そこには一つの人影。


「永遠の砂漠へようこそ、お二人とも」


狐のような顔。

長く伸びる二つの腕で、そのバランスを保ち、そこに立っている。


今までの、沢山の球体が浮かんでいた金鰲島内部よりも、もっともっと広い場所。

広大な砂漠。

どこまでも続く、単一色の世界が、そこには広がっていた。

上空には青空。


「私は金鰲十天君が一人、張天君」


流れるような声で、目の前の人物は言った。


十天君。


楊ゼンとに緊張が走る。


自分たちが潜入していたことは気付かれていたのか。

そうなることを予想してはいたものの、あまりにも早い金鰲側の対処。


「ここは私が作り出した亜空間『紅砂陣』まぁ異世界のようなものだ」


淡々と張天君は言った。


「・・・亜空間?」


楊ゼンは問う。

その問いに、張天君はにやりと笑った気がした。


「そう。そして・・・入った以上は二度と出られない」









































      








































執筆...2005,04,10