「僕とさんだけで崑崙山を守れ・・・か。師叔も人が悪い」 苦笑しながら、楊ゼンはため息をついた。 「たった二人で崑崙山を防御なんて・・・まぁ、愚痴っても仕方ないですけど」 は笑った。 二つの防壁 金鰲島がもう肉眼でも確認できる。 それほどまでに近付いた。 「そろそろ来そうですよ、楊ゼンさん」 たった今まで金鰲島から巨大スクリーンのようなもので映し出されていた聞仲。 宣戦布告のような言葉を並べ、それだけを告げると一方的に向こうが映像を切った、というところだった。 は立ち上がる。 『来た!』 太公望の声が響いた。 聞仲同様、太公望も対抗して巨大スクリーンにて聞仲に反論していたのだ。 一方的に聞仲側の映像が切れた今、スクリーンは崑崙山側のみ。 映像を切った金鰲島から、丸い爆弾らしいものが次々と飛んできているのが小さく見える。 お互いを肉眼で確認できるとはいえ、距離はあるのだ。 『金鰲からのミサイル攻撃だ!楊ゼン、、頼む!』 そう言うと、太公望の映像はブツリと切れた。 「・・・じゃ、頑張りますか」 「そうですね、頑張りましょうか」 楊ゼンも立ち上がり、は宝貝を強く握った。 「全体的なバリアは僕に任せてください。確かさんは相手の攻撃を跳ね返すことが出来るんですよね?」 「出来ます。私は楊ゼンさんの取りこぼした攻撃をの方に徹底すれば良いってわけですね」 一言言えばすんなり返ってくる言葉に、楊ゼンは感心を覚えながら、頷く。 「お願いします」 そう言うと、楊ゼンは手に力をこめ、そこに集中した。 すると手は揺らぎ、そこには丸いボールのようなものが現れた。 そのボールからは水があふれ、あっという間に崑崙山全体を覆った。 水のバリアだ。 「すごい楊ゼンさん!部分変化!」 は目を輝かせ、楊ゼンを見た。 初めて見た。 こんなにも完璧な変化。しかも部分的な。 に、楊ゼンは小さく微笑む。 金鰲島から飛んできた大量の爆弾は水のバリアに当たり、そこで全て爆発した。 まず始めの攻撃に関しては全て粉砕。 金鰲側もそれを見て取ったらしい。 今しがた爆弾が出てきたところと同じ穴から、今度は空飛ぶロボットのようなものが弾き出されてきた。 それらは翼を広げ、こちらに向かってくる。 「宝貝ロボ・・かしら」 「黄巾力士のようなものでしょうかね?」 宝貝ロボたちは、楊ゼンの作り出した水のバリアに到達した。 さきほどの爆弾は、ぶつかって爆発する仕掛けだったために、バリアに当たれば自ら爆発してなくなった。 だが今度はロボットのようで。 そのため、水のバリアも 「泳いできたっ」 は、サッと宝貝を構える。 楊ゼンも左手に水を操る宝貝を持ったまま、もともと自分のものである方の宝貝に手を伸ばした。 ロボは水のバリアを容易く通過。 楊ゼンとめがけて向かってきた。 「疾っ」 まず、楊ゼンが宝貝で攻撃を仕掛けた。 だが、その攻撃はロボに当たらず跳ね返る。 ロボの体全体を包む、透明の球体が見えた。 「なっ、バリアを!」 当たらないと分かっているのだろう。 楊ゼンの攻撃に怯むことなく、宝貝ロボは突き進んでくる。 そして、ロボの頭部辺りで、パリパリと光が弾けるように音を立て、 「危ない楊ゼンさん!」 次の瞬間にはそれは楊ゼンと目掛けて襲ってきた。 は宝貝を勢いよく振り、そこから風が巻き起こる。 作り出された風は竜巻のように渦巻くと、ロボからの攻撃共々、ロボに向かって返っていった。 来た分だけの攻撃が、そのままそれぞれに跳ね返っていく。 風までもプラスされ跳ね返された攻撃は、ロボのバリアを突き抜け、一気にそこから幾つもの魂魄が飛んだ。 「・・うわ、すごい・・・」 思わず、楊ゼンは呟いていた。 しかし、いま魂魄となったロボは、ただの一部。 まだ周りに大量にいる。 「もうキリがないです!」 「・・・確かに」 は声を荒げ、楊ゼンも同意する。 それに、闇雲に風で追い払おうとしても避けられれば意味がない。 と、そのとき崑崙山の方で、何かが光っているのに気付いた。 しかも、その数は多い。 ちかちかと、それは近付いてきているように見える。 「な・・なっ」 向かってくるそれらを、は慌てて避ける。 「これは・・・」 楊ゼンも部分変化で雷震子の翼を作り、宙を飛んでそれをかわした。 いくつものそれは、多量の攻撃。 楊ゼンとに当たることはなく、全て敵である宝貝ロボ目がけて。 一度にこれほどまで宝貝の力を発動出来る人物など、滅多にはいないかもしれない。 攻撃内容、そしてその量から、おおよそ見当は付く。 楊ゼンとは攻撃の飛んできた原点へと視線を向けた。 そこにはやはり、思っていた通りの姿。 まだ少年のような顔立ち。 だが、それとは裏腹な、強大な力を持つ。 「ナタク!」 「ナタクすごい!すごいけど、でも危ないわ!」 2人は、ほっと安堵の息を零した。 のときよりも、もっと多くの魂魄が、封神台に向かって飛んでいった。 「――ナタク!上!」 楊ゼンが、はっと見上げるその先。 今のナタクの攻撃網を掻い潜ったロボがいた。 ナタクより高いところから、ナタクを狙い、 「ナタク!背中が甘いぜ!」 声が響いた。 同時に、ナタクを狙っていた宝貝ロボの体が何かに捕まえられ、それは輪っかのようで。 宝貝ロボの動きを封じる。 そして、一つの影が素早くロボに近付き、二つの刀が光った。 相手を捕まえる輪の宝貝と、二刀の宝貝。 それらの宝貝の使用者は、「普賢」と書かれた黄巾力士に乗っていた。 には見覚えがあった。 そう、確か普賢の弟子と、その兄。 名前は、 「木タクと、金タクの兄弟ですね」 楊ゼンが言った。 味方は多ければ多いほうがいい。 「・・・それにしても・・・おかしくないですか?」 ふと、は呟いた。 「なにがですか?」 楊ゼンは尋ねる。 「だって、こんな攻撃ばっかりで、おかしいですよ」 金鰲ならもう少し大きな攻撃をしてくるかと思っていたから。 こんなに細々とした、圧倒的にこちらが有利なばかりの攻撃。 「・・・言われてみれば」 その通りだ。 楊ゼンは頷く。 「なにか事情があるんでしょうか。崑崙山を壊すことは最初からする気はないとか、もしくは時間稼ぎとか」 言って、は考える。 周りでは、ナタク、木タク、金タクの凄まじい攻撃が繰り広げられている。 「崑崙に元始砲があるように、金鰲にも主砲があって、その力を貯めるために時間を稼いでるとか」 顔を上げ、は楊ゼンに顔を向けた。 「いえ、ですがここはまだ金鰲の主砲の射程距離外のはずですから、それはないと思いますよ」 楊ゼンは首を振る。 「ってことは、金鰲にも主砲はあるんですか?」 初耳だ。 「ええ、通天砲という主砲が。威力も大きく、まともに当たれば崑崙山も全壊してしまうかもしれません」 楊ゼンは答える。 「うわぁ・・」とは顔をしかめた。 そんなの絶対当たりたくない。 「詳しいんですねぇ、楊ゼンさん」 と、突然辺りが静かになった。 不審に思い、二人は上を見上げると、宝貝ロボがいない。 「逃げてったぞ!」 金タクが言った。 見ると、宝貝ロボは一目散に金鰲へ帰っていっていた。 「え・・急にどうして・・・」 嫌な予感。 まさかそんな。 予想が当たる? 「まさか」 楊ゼンは首を左右に振った。 「・・・今回のさんの予想は、当たってほしくないです」 眉根をひそめ、楊ゼンは金鰲を睨む。 瞬間、空気が波打った。 真正面に位置する金鰲島から、大きな光の塊が向かってくる。 一瞬間、は宝貝を発動させようかと思った。 だが、間に合いそうにない。 崑崙山全体を包む風を作るなんて。時間が足りない。 それに、あれほどまでの大きな力から守りきる自信が、にはなかった。 主砲からの攻撃は、水のバリアを打ち消し、崑崙にぶつかった。 大きな音。 震動。 土煙。 地響きのような、余韻。 「・・崑崙山が・・・!」 やがて、土煙が晴れる。 煙の中、崑崙が姿を現した。 「全壊は・・・免れたか・・・」 ほっと楊ゼンは息をついた。 崑崙の右上部、通天砲が当たった箇所には大きな穴があいていた。 そして、土煙の向こう、きらきらと光るものが見え。 多数の魂魄が、封神台へと飛んでいった。 は無言で立ち竦み、封神台に向かう魂魄を眺めていた。 また、大事なときに何も出来なかった。 後悔の渦。 と、背後の気配が、突然消えた。 は振り返る。 「・・・楊ゼンさん?」 自分の後ろには楊ゼンが。 今の今まで、ここにいたはず。 きょろきょろと、は辺りを見回した。 「・・・どこに」 楊ゼンの姿は、見当たらなかった。 戻 前 次 執筆...2005,03,13 |