たった一人の人にとってで良いの、その人から必要だと思われる人になりなさい 小さい頃に何度となく聞いたのは、母のその言葉だった。 いつも家族の中心だった母。 家族を大切にすること、生きていくうえで大事なことを教えてくれた母。 笑顔は今でも覚えている。 父のことも大好きだった。 物静かであまり喋る方ではなかったが、穏やかな顔でいつも傍にいた。 たまに頭を撫でてくれた手がとても温かかったのを覚えている。 だから思った。 自分は、この二人にとって必要だと思われる人間になろうと。 だけど、二人は死んでしまった。 息苦しい。 うっすらと、ゆらゆら光るあおいろが見えた。 空の色なのだろうか。 水は実際にはあおいろなんてしていないから、きっと空の色だろう。 思考回路が途切れそうになる頭で、そんなくだらないことを考えた。 ――絶対、約束しなさいよ! 私より先に、死なないって!―― 今思えば、なんて自分勝手な、子供じみた物の言い方だろう。 半分ほど場の勢いで言ってしまったことだったけれど。 もう半分ほどは本心だった。 近しい人が死ぬのは嫌だ。 幼い頃、両親の死を身をもって痛感しているのだから。 ――・・・おぬしが約束しろと言ったこと、守りたかったのだがのう―― 太公望はそう言った。 つまり、約束は守れないと。 約束を守るという返事もきいていなかったけれど、あの様子だと守ってくれるつもりだったのだろう。 このまま沈んだらどうなるんだろうか。 ここで死んだら、魂魄は封神台に飛んでいって、そうなると封神計画は誰か他の人が引き継ぐことになるのか。 楊ゼンさんが妥当なところだろうな。 将来有望で、少なくとも私よりは強いだろうし。 ――お師匠さまぁ! さん! 四不象!―― ・・・武吉くん 聞き覚えのある声に、は自分の手が微かに水の中で動いたのに気付いた。 そうだ。 なんのために自分はこんな水の中で生きることができてる? なんのために彼は私を水の中に突き落とした? この考えはただの欺瞞かもしれない。 だけど、 私はまだここで死ぬわけにはいかない。 それは彼の行為を棒に振ってしまうことになるだろうから。 勝手な考えだと思われてもいい。 身体の周りの水が、柔らかくなった。 使命の天秤 「・・・うそだ」 武吉が声にならない声で呟いた。 魂魄が一つ、趙公明の建物の上から飛んだのだ。 趙公明の作り出した大きな龍が突っ込んだ場所からだった。 つまり、魂魄の主は趙公明ではない。 つまり、 「・・・どうするんですか原始天尊さま!師叔かさんが封神されたではないですかぁ!」 楊ゼンが苦虫を噛み潰したような顔と声で原始天尊の肩を揺さぶった。 太公望たちと趙公明が建物のてっぺんで戦っている。 原始天尊はそれを見届けるために仙人界からおりてきていた。 本当の理由は誰にも分からないが、おおかたそんなところだろう。と、誰もが思っていた。 他に理由も見あたらないから、きっとそうなのだろう。 まずは楊ゼンのところに原始天尊は現れていた。 趙公明の建物の途中階々で、最初にここに来た人間のほとんどが負傷者になってしまった。 なので楊ゼンはその負傷者たちを一旦、周軍の宿営地まで連れ帰っていた。 そこへ、急に原始天尊がやってきた。 そのときは、瞬間移動を可能とする乗り物に乗って。 しかしその乗り物は、楊ゼンと武吉が、太公望たちが心配だからという理由で掻っ払っい外に出てきていた。 ただ、楊ゼンでもその乗り物を操るのは困難なもので、川の中に落ちてしまっていたのだ。 それからすぐに、今度は原始天尊が黄巾力士に乗って、再び楊ゼンの元へと飛んできたところだった。 楊ゼンは、太公望たちに助け船を出そうとしていた。 武吉が、「お師匠さまの宝貝にヒビが入っている」と言った時点で。 武吉の驚異的な視力で見えていた。 いくらあの太公望との二人が一緒になって戦っていると言っても、難しい相手だと判断したからだ。 しかし、それを敢えて原始天尊は止めた。 太公望となら、おそらくは大丈夫じゃ そう言って。 だがそんな言葉もむなしく、太公望とのいた場所から一つ、魂魄が飛んだ。 たった一つだった。 太公望か。 どちらかの魂魄が飛んだ。 その事実が、突然つきつけられた。 四不象がもしも死んだとしても、魂魄は飛ばない。 仙道か、封神計画に近い人間の魂魄だけが飛ぶのだから。霊獣のものは関係ないのだ。 楊ゼンたちのいる場所からは、二人のうちどちらがいないかは見えなかった。 趙公明の作り出していた龍が建物に突っ込んだ衝撃で砂埃が舞い、その場所が全く見えないからだ。 どうなのかは分からないが、武吉の目でも見えてないようだった。 武吉はただ無言で、その場所だけを必死で見つめていた。 そうやって見つめていれば、二人共がすぐにその視界に入ってくるのだと信じているかのように。 一体どちらの? 楊ゼンは咄嗟に思った。 しかしすぐに別の考えが入り込んできた。 封神されたのがどちらにしても、残った方も戦闘不能状態に違いない、と。 どちらの姿も見えない。 誰かがその砂埃の中で動く様子もない。 「・・・僕がいくしかないね。師叔とさん、どちらが封神されたにしても――」 そこまで言って、止まった。 急に、何かが自分の背後から飛び出し、自分を掠めていったから。 それが武吉だというのに気付くのに、時間はさほど掛からなかった。 川の中から突き出している岩を次々に飛び移って、趙公明の建物を一心不乱に目指している。 それだけはしっかりと分かった。 目的はそれだ、と。 「お師匠さまぁ!さん!四不象!」 趙公明の建物に辿り着いた武吉は力一杯に叫んだ。 建物と言っても、もはやあちこち瓦礫だらけになっているが。 「そんな!嘘ですよね、お師匠さま!さん!出てきて下さいよ!」 辺りを見回しながら、武吉は瓦礫を押しのけた。 巨石を退かしながら、砂埃をあげるその一点を目指した。 やっとのことで辿り着くには辿り着いた。 が、 「・・・そ、んな・・・」 手で抱えていた石が、がらがら、音を立てて武吉の手から離れていった。 へたりとその場に座り込み、そこにあるものを見つめた。 そこには、周りの物とは明らかに違う色の石が散らばっていた。 何か周りの岩ではない別の物体が、そこで崩れたのだ。 そして見覚えのある、丸い玉。 そうだ、四不象がいつもその手に持っていたものだ。 すぐそばには、これも馴染んでいて見覚えのある服の破片。 自分が、いつも師匠と呼んで追いかけた人物の服。 そしてもう一人の、もう一人いたはずの人の痕跡はどこにも見あたらなかった。 なぜないのかは分からない。 ただ、 何をそんな顔をしておる。ほれ、しっかりせぬか。 大丈夫よ。さて、頑張っちゃいましょうかね。 こういう状況だったら、そんな風に言ってくれるであろう人のどちらもが、この場から消えていなくなっているということだけは分かった。 とんだ魂魄は一つだった。 しかし、どちらの魂魄が飛んでいったとしても、もうそんなことは関係ない。 ふつふつと、感情が沸き上がってくる。 バッと武吉は立ち上がり顔を拭った。 そして振り返る。 そこには、金蛟剪を持ったままの趙公明がいる。 一直線に、武吉は駆けだした。 天然道士の脚力を最大に使い、飛び上がり、趙公明の真正面へと駆け上った。 突然のことに、もちろん趙公明は何が起こったのか分からなかった。 急に、太公望たちの仲間である天然道士の少年が、目の前までやってきた。 つい今まで下の、太公望たちが消えた場所にいたはずなのに。 武吉の目は、拭った甲斐もなく、再び涙が溢れてきていた。 「おまえが!おまえが!!」 叫び、無我夢中、という感じで右手を勢いよく振った。 次の瞬間にはひどい音がして、趙公明は横に飛ばされていた。 「なんと!」 「・・ちょ、趙公明を・・・」 「殴り飛ばしましたわ!」 まず言ったのは原始天尊で、その後に楊ゼン。 その次に言ったのはビーナスだった。 見事に合っているが、合わせようと思って言ったのではないことは分かっている。 二人の間には距離がありすぎる。 それだけ驚くべきことが目の前で起こったのだ。 倒れた趙公明に覆い被さるようにして、武吉は再び趙公明の顔を殴った。 「おまえがぁっ!」 うそだ、うそだ! そんなはずない、いなくなるはずがない! 二人とも、四不象だって、どこかで生きてるんだ、死ぬはずないんだ! 涙が止めどなく溢れ、やがて趙公明の顔すら見えなくなってきた。 一瞬、武吉の動きが止まった。 ためらいか? そう思ったのも束の間、左拳が高々と挙がり、勢いよく振り下ろされようと 「やめなさい!!」 高い声が響いた。 武吉の動きが止まる。 ゆっくりと、後ろを振り返った。 声のした方向を。 そこには、見慣れた人物の姿。 出てきてほしいと切に願った人の一人。 「・・・さ・・・?」 ごしごしと武吉は目をこすった。 見間違いじゃなかろうか、見間違いなんてまっぴらだ、と思ったのだろうか。 そしてやはりすぐに、その目からは大粒の涙がこぼれだした。 趙公明の上から飛び退き、武吉は慌ててそこに駆け寄った。 今の今まで殴られていた趙公明も、頭を左右に振って、その人を見つめた。 「さぁあん!!」 武吉は形振り構わず、抱きついた。 しかしすぐに、その人の異変に気付く。 手だけは彼女の服から離さず、の顔を見上げる。 は、上から下までびっしょりとずぶ濡れだった。 ぽたぽたと、髪や服からは滴りが落ちている。 「ごめんね、武吉くん。心配させて」 は武吉に笑顔を向けた。 だが、その笑顔にいつもの快活さはない。 辛い疲労が、その表情には濃く表されていた。 「・・、さん・・・ど、したんですか?」 は一つだけ、深く深呼吸した。 心なしか顔色が悪く見える。というより、悪いのだろう。 深呼吸をした後も、肩で小さく息をしており、その呼吸は速い。 「・・・太公望に、川の中に落とされた」 「え・・」 「というよりは、落として、くれた」 落としてくれた。 だから助かった。 「武吉くん・・やっぱり、太公望と・・四不象は・・・?」 どこにも見あたらない。 予想はしていた。自分を突き落とした時点で。 そしてやはり、武吉は何も言わずに俯いた。 「・・・ごめんね」 は武吉にやんわりと笑顔を作って、宥めるように頭をゆっくり撫でた。 ごめんね。 私だけしか残れなくて。 そんなに武吉は勢いよく頭を左右に振り、 「さんだけでもいてくれて、良かったです・・・!」 ぐしぐしと涙を拭いた。 「それより、さんは大丈夫なんですか!?」 息切れが収まらないを、武吉は心配そうに覗き込んだ。 「大丈夫よ」 にこり、は微笑んだ。 少し疲れているだけ。短時間だったが息の出来ない場所にいたため、酸欠状態なのだ。 そう、自分に言い聞かせた。 もう一つ、は深呼吸をつく。 そして、自分が対峙しなくてはならない人物を見上げた。 「なるほど。魂魄はくんではなかったのだね。ということは太公望くんだったというわけだ」 先ほどから黙って、と武吉の再会をじっと見ていた趙公明はさらりと、それだけを言った。 「武吉くん、下がっててね」 静かには言った。 武吉は無言でそれに従う。 ひゅ、とは宝貝を左上から右下へと、空気を切るように斜めに振った。 の前に転がっていたいくつかの、大きさも様々な岩が左右へと吹き飛ばされる。 趙公明との前に、遮るものは何一つなくなった。 「私は甘かったわ」 は真正面を見据えた。 「もしかすると趙公明さんは、話し合えば戦いをやめてくれるかもしれない、なんて思ってた」 階下で、趙公明と、四不象の3人で他愛のない話をした。 敵同士とは思えないくらい。 だから、もしかすると、と望みをかけていた。 あれだけ敵である自分たちと、なんの隔たりも感じさせず話しを出来るんだから、この人はそこまで戦う意志はないのではないか、 そう思った。 しかし趙公明は敵だ。 そう、そのことはちゃんと頭で分かってはいた。 だが小さな油断がこの悲劇を招いた。 もっとしっかり力を出していたら、もしかするとあの龍たちを跳ね返す力も作れたかもしれない。 なぜもっと早く、気付かなかったのか。 趙公明は話し合いなんかで戦いをやめてくれる人なんかじゃない、と。 だいたい、趙公明と話をするきっかけが出来たのだって、太公望をおびき寄せるために人質として自分たちを閉じこめたからではないか。 そんな人が話し合いなどで戦いをやめるわけがない。 その前に、話し合いなんかに聞く耳すら持たないだろう。 ピシリ、と空気が音を立てた。 自身は気付いていないようだが。 周りの風が鋭い刃物になり、岩を削るよう。 耳鳴りがする。 許せない。 何よりも自分が。 なにが守りの宝貝よ。 使う本人に自覚がないじゃない。 こんなことじゃ、誰も守れやしないじゃない。 無言のまま、はだけを強く趙公明んで、周りには鋭い風。 「・・・む・・このままじゃまずいようだ」 くんの力が強くなったようだね。 出てきていなかった力まで出てきたのかな? まるで、別人のようだよ。 趙公明は呟きながら、ビーナスに視線を向ける。 それが合図だったようで。 「分かっておりますわ、お兄様!」 そう言ってビーナスは、【愛の泉の溢るる壺】と自分で称していた宝貝をに向けた。 あの、何でも吸い込んでしまう壺の宝貝だ。 ビーナスととの距離はけっこうあるが、そんなことはお構いなしに宝貝は発動し、吸い込む力が起きた。 は方向転換をし、ビーナスに向かい合う。 吸い込む力に引っ張られ、身体が少し傾いた。 武吉は近くの大きな岩にしがみついていた。 やはり少し遠いせいか、力の強さにいささか余裕がある。 そしては、自分の宝貝をビーナスの持つ宝貝に向けた。 瞬間、 「きゃあぁっ!?」 ビーナスが叫び、その体は後ろへ吹き飛んでいた。 壺とともに転がるのが見えた。 同時に吸い込む力も消え、再びは趙公明に向き直る。 跳ね返した。 何が起きたのか分からなかったが、その考えが趙公明の頭の中に飛び込んできた。 は跳ね返したのだ。 吸い込む力をそっくりそのまま、ビーナスの元へと送り返した。 だからビーナスは吹き飛んだ。 しかし今のは、どんな時間もかからなかった。 が宝貝をビーナスに向けてから。 瞬時にはあれだけの力を跳ね返したのか。 ゆっくりとは、高場にいる趙公明の方へと歩み寄り、 「・・・次は、あなたの番ね」 無表情だった顔に、ふわりと笑顔が浮かんだ。 はビーナスのときのように、趙公明へ宝貝を向ける。 「・・ふっ」 まさか、これほどとはね。 「噂」もたまには当てになるじゃないか。 趙公明は静かに、金蛟剪を両手に持った。 カッ! 光で目がくらんだ。 金蛟剪から龍が飛び出してくるときの光とも、また違う別の光。 「・・・な、んだ?」 趙公明が呟くのが聞こえた。 にも分からなかった。 なんだろう、この光は? どうやら自分の後方からの光のようだ。 光が収まり始め、だんだんと周りが見えるようになってようやくそれだけが分かった。 だから、何なのだろうと振り向こうと趙公明から目を離し、しかしそれの正体が分からないまま、 「・・・え、なっ?」 突然、自分の体が地面を離れて浮いていた。 離れた正面にいた趙公明の横をすり抜け、川の上で止まる。 そして自分の隣には武吉がいた。 「・・・武吉くん。・・・え、なに、なにこれ」 武吉にも何がなんだかさっぱりのようで、ただただ呆然としていた。 そこで初めて、自分たちが宙にいることが出来るのは、何かに掴まれているからだと分かった。 何かの手。 それに体を掴まれている。 ゆっくり上を見上げた。 「・・・わ」 そこには、見たことのない霊獣の姿。 しかも大きい。 が、ところどころに見覚えがある。 白い角や、角に付いた手綱や、手袋。 まさか。もしかして。 「・・・四不象、ちゃん?」 ゆっくりと、は尋ねた。 その霊獣は、の声に反応したのかを見下ろす。 自然と、の顔が綻んだ。 目の奥で何かが熱くじわりとした。 「四不象なんだ!うわあっ!四不象が戻ってきたぁ!」 武吉が心から嬉しそうに叫んだ。 顔いっぱいの笑顔。 「四不象ちゃん・・・【スープー】・・・。そっか・・・四不象ちゃん、私、あなたの一族のこと知ってるわ」 変身が出来る霊獣一族だったんだね、四不象ちゃんは。 ずっと前に一度だけ、その一族のことを聞いたことがある。 今の今までその一族が四不象ちゃんとは結びつかなかったけど。 「でも四不象ちゃんは・・・石が、ばらばらに・・・」 そこで、は気付いた。 自分と武吉を掴まえているこの四不象の手。 いつもだったら、この手にこんな風に自分たちを掴まえることは出来ない。 そう、いつもなら両手で大事そうに、丸い石を持っていたから。 「あの玉・・・あれは、復活の石だった・・・?」 仙人界の至宝と言われる復活の玉。 奇跡の玉。 持ち主の命が危険にさらされると力を発すると言われている。 全てに合点がいく。 四不象は帰ってきてくれた。 『・・・武吉・・』 見知らぬ声が辺りに響いた。 遠くで呆気にとられている趙公明の声でも、もちろん武吉やのものでもない声。 「・・・もしかしてこの暗くてダークな声は四不象なんだ?」 武吉が四不象を見つめながら言った。 およそ、その姿形からはあまり想像出来ない声色だった。 『・・・太公望は生きてるぜ』 バッとと四不象は顔を見合わせた。 「・・・生き・・生きて、るの?」 本当に? 『あぁ。それにオレと一緒に復活の玉の光も浴びたから怪我も治ってるはずだ』 生きてる。 太公望が。 よく分からないけれど、太公望は生きてる。 みるみる武吉の顔に光が宿る。 も胸の辺りの嫌なものが、一気に飛んでいった気がした。 「お師匠さまが!?ほ、ホントに!?」 「・・・武吉くん、探してきてくれる?もしそうなら、瓦礫の下にでも埋まっちゃってるんじゃないかと思うから」 「分かりました!任せて下さいっ!」 四不象は川の上から趙公明の建物へと移動して、武吉を下ろした。 素早く、武吉は四不象の手から離れて駆けだす。 「お師匠さまーっ!今お助けしますーっ!」 はしゃぎながら嬉しそうに、武吉は走っていった。 「・・・太公望くんが、生きている?」 もちろん武吉の声は聞こえていた趙公明。 まさか、という顔をしたが、すぐに 「なるほど!どうしてなのかは分からないけれど太公望くんも生きているのだね!?キミたち二人は本当に僕を楽しませてくれるよ!」 四不象の背中へと移ったを見上げて笑った。 「それでどうするかな?太公望くんは生きているとして、自分から出てこないところを見ると探し出さなきゃならないようだね」 「太公望が来るまでは私が戦います。太公望が本当に戦える状況かも分からないし」 「なるほどなるほど。 だけどくん、キミ気付いているかな?さっきまでのキミの力、今はどこにも感じられないのだけれど」 ハッとした。 確かに、今はもうすでに宝貝だって右手に持っているというのに、先ほどのように力がわいてこない。 まるで、出かかっていたものが、また押し込められてしまったような感じだ。 それに、元からあった力も先ほどのことでほとんど使ってしまったような、それくらいの力しか残っていないような気がする。 「そんな状態で、僕と戦えるかい?」 趙公明は相変わらず笑顔でいた。 その程度の力じゃ僕に勝つのは無理だよ。 よっぽど死に急ぎたいというのなら別だけどね。 趙公明の笑顔は、そう言っていた。 「戦えます!勝つことだけが勝負じゃないわ!」 は宝貝を趙公明に鋭く向けた。 「僕もいるぞ、趙公明」 耳慣れた声が、の耳に届く。 その本人の姿も、すぐ横へと降り立ってきた。 「・・・楊ゼンさん」 「僕だけじゃなくて、原始天尊さまもね」 楊ゼンはに笑顔を向ける。 後ろに気配を感じて振り向くと、そこには原始天尊もいた。 「さぁ、僕たちが相手だ趙公明!」 楊ゼンに、聞くところによると宝貝の力を無効にするという能力を持つ四不象に、原始天尊までいる。 誰が見ても、趙公明の不利を確信するのではないだろうか。 突然、趙公明は金蛟剪を横にかなぐり捨てた。 がちゃん、と音がして金蛟剪は二つに分かれる。 「フン、なめないでもらいたい!」 みしり。 何かが軋むような音がした。 それは間違いなく、趙公明から聞こえた。 突然、趙公明の足下から、手から、植物の根のようなものがうごめき出てきた。 「・・・な、」 「この姿は、原始天尊くんとの最終決戦のために取っておきたかったのだけどね」 どんどん根は伸びていき、目の前の出来事に楊ゼンは思わず後ずさりした。 も、今自分が見ているものを信じれていないような表情をしていた。 「・・・まさか」 「もしかして、趙公明は」 「・・・そうじゃ、わしとの戦いのときには見せなかったあやつの本当の姿。妖怪仙人の原型じゃ」 原始天尊は静かに息をつき、言った。 戻 前 次 ・・・今回の、いっぱい詰め込みすぎたような気が・・・。 そういえばさんって。 恋愛事にだけ鈍いキャラ、という風にしたかったんですが、前回、前々回とかで天然キャラになってしまっている気がする・・・。 違うんです。天然ヒロインじゃないんです。 第一、天然大ボケヒロインは私自身があまり好きじゃないかr(終了 そんな風に書いてるつもりはないんです。・・・いや、なってないんなら良いんですけどね? とりあえず、恋愛にだけ鈍いキャラってことにしといてください・・・。 日常的には普通の人なんです。変だけど。 執筆...2005,01,15 |