昔、誰かが言っていた。


憎しみからは何も生まれやしない。

唯一生まれるとするなら、それは悲しみだけだ、と。





私たちは今きっと、その悲しみの渦の中にいるのだろう。



























悲哀の中の憂いと慈しみ



























「へぇーっ じゃあちゃんの宝貝、変身するんだ!」


「うん、なんかそうだったらしいのよね」


感嘆の声を上げて、蝉玉はの宝貝をしげしげと眺める。



「周軍A、そのまま前進!」



姫発が声を荒げて指示を出した。

殷郊率いる殷軍と、姫発率いる周軍の全面戦争が始まったのだ。

姫発は、太公望が教えたままに兵たちへと指示を出す。

状況は、周軍の優勢。


「ふむ・・・今まで生きてきた中で、これほどまでに鮮やかな戦術は見たことがない・・・」


武成王の父親が呟く。

周軍に囲まれた殷軍の兵士たちは、続々と白旗を挙げ始めていた。

隔てる者が少なくなった周の前線兵たちは、敵の頭である殷郊を倒すべく、どんどん攻め入っていた。



「!」


「――宝貝!」



人間同士の戦いに、直接仙道が入ってはならない。

そういう太公望の指示で周の兵よりも後方にいたたちは、急に入り込んできた今までと違う空気を感じ取った。

誰かが宝貝を使った。空気がそれを教えてくれる。

それも、強力な。


「・・・強い宝貝の波動を感じる」


真っ先に動いたのはナタク。

仙人界での修理を終え、応戦のために再び降りてきていたのだ。


「ついに王子さんが宝貝を使い出したさ!」


上空を飛びそこへ向かうナタクの下を、天化、蝉玉、たちは急ぎ走った。

普通の人間に、殷郊は宝貝を使っている。

止めなくては。



「待て、おぬしたち!」


今まで姫発の近く、兵たちへの指示を出せる場所にいたはずの太公望。

その太公望が、急にたちの前に割り入ってきた。


「何だ?」


「なによぉ!道士が相手ならあたしらの出番じゃん!」


自分たちを止めた太公望に、ナタクと蝉玉は疑問の声を投げる。


「いや、今回だけは全てわしに任せてもらう。わしが決着をつける」


太公望は言った。

以前に殷郊を助けたのは自分。

種をまいたのは自分なのだから。

だから、自分で終わらせよう、と。


太公望に反対する者はいなかった。


「それから


蝉玉の後ろにいたに、太公望は呼びかける。

突然自分の名前を呼ばれ、は顔を上げた。


「あ・・・何?」


「おぬしはわしと一緒に来てくれ。殷郊の宝貝は一度に何人も攻撃できる。あそこにいる兵士たちが危ないからのう。おぬしには兵たち全員の援護を頼みたい」


「・・・分かった」


そして、太公望とが殷郊の元へ向かった後。




「・・・それにしても・・・兵全員の援護って・・・ちゃん、大丈夫なのかしら?」


不安げな表情で、蝉玉は呟く。

太公望とは、兵たちの群れの中に消えた。


「・・・たぶん、大丈夫なんだと思うよ。さんも師叔と同じように元始天尊さまの直弟子だからね。それにあの宝貝・・・」


ちゃんの?」


「そう、あの宝貝・・・昔師匠から聞いたのだけど、使い手を選ぶらしいんだ。選ばれた者は、それ相応に力を持っているのだと。そんな代物をいとも簡単に使っているだろう?いつもは師叔の妹弟子なだけに、ぼんやりしてる人だけど・・・」


楊ゼンは苦笑した。


「へー、ちゃんてとても強い子ってことなのねー!」


蝉玉は賞賛の眼差しで、がいるであろう方向を見つめた。








―― パ キ ン ッ



まばゆい光りが、一瞬弾けたように光り、それはの羽衣に集まる。


「おお、それが新しいか」


突然光ったの方を見て、太公望はその宝貝に目をやった。

はそれを、しっかりと右手で握る。

元始天尊に、元の姿に戻す方法を伝授してもらい、数分それを繰り返してみると、短時間でコツを掴むことが出来た。


「うん。元始天尊さまのところで練習したからね。この形だと防御力もアップしてるのよ」


真の姿の

打神鞭より長く、楊ゼンの三尖刀より少々短い、棒状の宝貝。

真っ白い長い棒で、一番上には薄い緑色が渦巻く丸い水晶玉のようなものが付いている。

その先端に近い部分には凝った装飾が施されており、水晶玉を囲んで、青や透明の小さなガラスが揺れ、シャラシャラと音をたてていた。

どこぞの魔法使いやらが持っていそうな、洒落た魔法の杖のような感じだ。

今までの宝貝、つまり羽衣とは似ても似つかない。


「いつもその形を保っておけば、元に戻すという作業の手間が省けるのではないか?」


「・・・うーん、私もそうしたいんだけどね、まだあんまり慣れてないからさ、この形だと羽衣の時より疲れるのよ。それに羽衣の方が軽いし、持ち運び便利でしょ?」


「ふむ・・・」


なるほど。つまりまだ長時間使いこなせるわけではないのだ。

なるべく早く決着を付けることが強いられるだろう。



「・・・あ、軍師さま!」


「軍師さまだ!」



自分たちと殷郊の間に入ってきた太公望とに、兵士たちは安堵の声でざわめいた。


殷郊は無表情で、入り込んできた2人を見つめる。

当の2人は、殷郊の足下に倒れている兵士数人を見た。

既に息絶えている。

その兵たちは、殷郊の宝貝によって頭を貫かれたのだ。

即死だ。


「番天印・・・押印した者を100%殺傷する恐るべき宝貝・・・」


「広成子に聞いてきたのか?」


広成子、というのは殷郊の師匠で、殷郊に宝貝を与えた仙人のこと。

太公望との登場に、殷郊は動揺することもなく、少し微笑んで言った。

太公望は死んだ兵たちから目を離し、殷郊と向かい合い、宝貝を構えた。


「行くぞ、殷郊!」


「・・・な・・」


兄のしたことが信じられず、それを止めようとして来ていた、弟の殷洪は愕然とした。

太公望は何と言った?

兄のことを、止めてくれないのか?


「・・・な、んで・・・どうしてだよ太公望!兄さまと助けてよ!説得してよ!」


殷洪はすがるような目で、太公望とを見た。


「分かってやれ、殷洪。こやつは今、殷の応対師としての責任を果たそうとしておるのだ。それに答えて、わしも周の軍師として周のために戦おうと思う」


太公望は、殷洪の方は振り返らず、ただ殷郊だけを見据えて言った。


「そんな・・・」


殷洪は俯いた。


「・・・殷洪くん、ここは危ないから後ろに下がっててくれる?」


は殷洪を宥め、促した。

後ろへと下がる殷洪の足取りは重く、暗い。

だがは、殷洪にかける言葉を見つけることが出来なかった。




「ふっ・・・。まさか、その打神鞭で私の番天印と戦うと?その貧弱な宝貝では、私は倒せない!」


殷郊は太公望が手に持つ打神鞭を見て言った。


「そうかのう?」


太公望は小さく笑う。


そして



「疾ッ!!」


左手で、大きく打神鞭を振った。


瞬間、大きな風が起こり、今までの打風刃とは比べ者にならない、大きな風の刃が空気を裂いた。

その刃は空気だけでなく地面すらも貫いて、殷郊の真横を通り過ぎ、大きな亀裂を残した。


「・・・なっ」


殷郊は言葉を無くし、その亀裂と太公望を見る。


「わしとて、いつまでも弱いままではおれんよ。さぁ本気で来い殷郊よ!」


太公望の周りを風が渦巻く。

の後ろで、兵士たちがざわめく。

自身も驚いていた。


「・・・す、ご・・・」


まさか、太公望がここまで強かったとは。

妹弟子のくせに、把握できていなかった。

微妙に・・・悔しいような。


そしてまた風が起こり、今度はいくつもの風の輪が太公望の周りで完成していた。

それは中を回転しながら飛び、殷郊目がけて向かっていく。


「そんなもの!」


殷郊はすかさず番天印を発動させ、その輪に押印する。

兵士たちの頭を貫いた攻撃。

それが、風の輪へと一直線に当たり、あらかた輪は消滅した。

しかし、


「・・・っうわ!」


いくつか、壊れない者があった。

それは殷郊の足を貫く。

衝撃で、殷郊は倒れ込んだ。

ポタポタと、殷郊の足から血が滴り落ちる。


「力で押し切られるとはね・・・あなたを甘く見すぎたみたいだ」


「殷郊・・・」


「苦しそうな顔をしないで下さいよ、戦意が鈍る」


殷郊は傷付いていない方の足に体重をかけ、立ち上がった。


「止められぬのか・・・殷郊」


「・・それだけは出来ない」


殷郊の言葉と同時に、いくつもの印が太公望に押される。

その印の数だけの攻撃が、太公望に向かってくる。


「疾ッ!」


太公望は風の渦を作り、それら全てを弾いた。


「私は殷を守る!どんな手を使ってでも!」


殷郊は叫び、沢山の押印が宙に浮かんだ。

それは太公望を通り過ぎ、後ろの兵たちを狙って。


「・・・来たっ」


は宝貝を構える。

兵たちに印が押された。

守らなくては。

それが役目。


しかし、押印された兵士たちは


「・・・あ・・・」


「お、おれ達も殺される・・・!」


「にっ 逃げろ!」


バラバラに、逃げ始めてしまった。


「え・・・ちょっ・・・バラバラに逃げないでよ!守りにくいでしょ!?」


ああもう!

と、はとりあえず宝貝を勢いよく宙でくるくる回して、逃げ回る者も含めた兵士全員の周りを風で囲んだ。

いきなり取り囲んだ風の壁に、兵たちは驚き、足を止める。


「全員!その中から動かないで!!」


は大声で叫んだ。


「広範囲に使うのって、けっこう疲れるんだから・・・」


は呟き、大人しくなった兵士たちに胸を撫で下ろした。



・・・あなたの妹弟子、ですよね。さすが、強い能力を持った人だ」


殷郊はに番天印を向けた。


「・・・え」


こちらを向いた殷郊に、はたじろぐ。


「殷郊!やめ・・・」


「動かないで下さい」


太公望の左腕に、印が押される。

太公望は動きを止めた。


「動けば、あなたの妹弟子が代わりに死ぬことになります」





ドン!!





―――え?


「ご主人!!」


上空から、四不象の叫びが聞こえた。


今、太公望の腕、が


は、全身から力が抜けるような気がした。

後ろで兵たちを守っている風の音が、だんだんと弱くなるのが分かる。

だが、理解は出来ても、それを元に戻す力が入らない。



!!」



ハッとは我に返った。

太公望の声。


「気を抜くでない。まだ終わっておらぬのだぞ」


太公望の顔は見えなかったが、声だけで、


「・・・ごめ・・・」


気を取り戻す。

風が戻った。

は宝貝を握りなおした。


「殷のためには死んでもらうしかないんだ太公望!」


殷郊は、また押印をいくつも太公望に向けた。

確かにまだ終わっていない。

しかし、太公望の打神鞭は左腕と共に地面の上に。

時間がない。


「これが最後だ!」


殷郊は叫んだ。


太公望が危ない。

は自分の宝貝を太公望に向けた。


その時、の横を、風の壁を通り抜けて誰かが走りすぎた、

突然のことで、は対処できず、しかもそれが誰なのかと言うことも、すぐに理解できなかった。


その人物は太公望に走り寄り、庇うように、盾になるように、太公望の正面へ。




「・・・・っ殷洪!?」


まさか。

目の前の光景。

赤い色が散る。


「・・・殷洪っ!!」


殷郊も叫んでいた。




殷郊の太公望へ向けた無数の攻撃は、無惨にも全て、殷洪に残らず当たって。

庇われた太公望と、攻撃した殷郊は、同時にその人の名を呼んだ。

倒れかかった殷洪を、太公望は右手だけで支える。


「・・・・兄、さま・・」


殷洪の手が、宙を彷徨う。


「これ、以上・・・仲間を・・・殺さない、で・・・」


泳いでいた手は力無く重力に従い、殷洪の河田は光り、その光りは殷洪の体を包んで、やがて光だけになり空高く、飛んでいった。


カタカタと、殷洪の体が震えだした。


弟を、殺してしまった。

実の弟を。



「あああっ!!」


殷郊は頭を押さえて叫ぶと、風の中の兵士たち全員が押印された。

風の壁がある限り、安全なことは安全なのだが、兵士たちは動揺する。


「どうしてこれがいけないんだ殷洪!どうして分かってくれないんだ!どうして・・・」


顔を上げると、すぐそこまで太公望が迫っていて、右手に持った打神鞭が向けられていた。


「――すまぬ、殷郊!」


風が起きた。

強い風。


敵わない。





ドン!!




風の刃が殷郊に真正面から当たる。

避けようがなかった。

深い傷。

大量の血が流れ落ちる。


「・・・殷郊・・・」


太公望が呟いた。


殷郊は太公望と、兵たちの前にいるをゆっくりと見た。

はもう風の壁を消していた。


そして殷郊は少しだけ微笑み、


「悔いは、ありません・・・」


殷洪の時と同様、体が光りに包まれ、魂魄として飛んだ。



































殷郊と殷洪が封神され、殷と周の1つの戦いが終わった。

戦死者の埋葬や、周軍の朝歌への前進を行ったり、数日間忙しい日が続いた。

しかし、それもようやく一段落して。


「そういえば、さんの新しい宝貝はどういうことが出来るんっスか?」


ちょうど太公望が四不象に、新しく貰った宝貝「杏黄旗」の説明を終えたところだった。

大きな岩場の頂上で、のんびり一休みしていたときのこと。


「ああ、そういえば言ってなかったね。私の新しい・・・っていうか、これなんだけどね」


は羽衣を両手で持ち、前に差し出す。


「・・・これ、って・・・いつもの羽衣っスね。今回は別の宝貝、使ってなかったっスか?」


確か兵たちを守っていたときは、羽衣を持っていなかったはず。

頭上に疑問符をいくつも並べる四不象に、は笑いかけて羽衣を見つめた。


と、羽衣は光りだし、



 パ キ ン ッ



光りの中から、違う宝貝が姿を現した。


「これが、本当のなのよ。羽衣は、力を押さえた仮の姿。
 主力としては、風の力で何かを守ること。それから現時点で私が出来ることといえば、相手の攻撃を跳ね返すことと、風に取り込んで消滅させること。
 物体そのものが飛んでくる攻撃だと跳ね返すしか出来ないんだけど、火や水なら消すことが出来る。相手の力が私より何倍も強ければ、それも難しいんだけどね。例えば申公豹の雷は・・・今の私じゃ無理かな。
 今回初めてこの形を使ったんだけどね。今までは知らなかったから。元始天尊さま言ってくれなかったし」


は宝貝を握る。


「・・・なるほど・・・。すごい・・・っスねぇ」


驚きを顔一杯に表した四不象には小さく微笑むと、宝貝を一振りした。

次の瞬間には、宝貝は羽衣の姿に。



「あ、そうだご主人!ボク、今からみんなにご主人が宝貝使えないただの人になったって言ってくるっスからね!まったく・・・そんな重大なこと、どうしてすぐに言わないっスか!!」


四不象は怒っていた。

とても。

それもそのはず。

今しがた太公望が四不象にした説明が原因なのだが、太公望は新しい宝貝を使った反動で、普通の人間に一時的だがなってしまったというのだ。

しかも、その期間は分からないらしい。

ただ、その間は宝貝が使えない。

つまり戦えない。


「言ってくるっスよ!良いんっスね!」


「・・・勝手にせい」


「勝手にするっス!!」


言うと、四不象は飛んでいってしまった。


2人だけになった岩場の上。


「・・・嘘でしょう」


先に口を開いたのはで。


「・・・何がだ?」


「何がって・・・普通の人間になったって事よ。そんなことってあるわけ?ていうか、さっき宝貝普通に手で持ってたじゃない。仙道じゃない人が宝貝持てるなんて」


「うむ、嘘だ」


「・・・やっぱり」


素直に白状した太公望に、内心拍子抜けしただったが、やはり考えは当たっていた。


「・・・言うでないぞ?」


「はいはい。・・・またどうせ何か作戦でも考えてるんでしょ?」


「おぬしは相変わらず鋭いのう・・・」


だてに何十年も妹弟子してないわ。

は言った。


そんなに太公望は苦笑する。



「・・・・ところで


「何?」


太公望は、自分の右側にいるを見る。


「・・・なぜ、こっちを向かぬのだ?」



――今のの中の、核心をつく問いだった。


一瞬、の体が揺れる。


「何か・・・怒っておるのか?言えば」


「違う。怒ってなんか・・・」


太公望の言葉を遮り、は俯いて首を左右に振った。

それでも変わらず、太公望を向こうとはしない。


「・・・それなら・・・」


分からない。

殷郊との戦いが終わってからずっとなのだ。

不自然に、こちらを見ようとしない。

怒っているわけではないのなら、どうしてなのか。


「・・・、おぬし・・・どうしたのだ?」


「・・・ど、どうもしな」


「それなら、なぜ目をそらすのだ」


太公望は、右手での肩を掴み、無理矢理自分へ向かせた。

驚いたような、何かを怖がるかのような、強張ったの顔。


「言わなければ、・・・分からぬであろう?」


久しぶりに見たような気がする、太公望の顔。

そんなことはないのに。

心なしか、気持ちが落ち着いていく。

目の奥が、熱い。




「・・・だっ、て」


しばらくの沈黙の後、ようやく、は口を開いた。


「だって・・・太公望、見たら・・・腕、まで、見ちゃって・・・」


は俯いた。


腕。

この、左腕のことか?

殷郊との戦いで、失った利き腕。


太公望は、そこでようやく合点が付いた。

小さく、溜息を吐く。


「・・・言っておくが。この腕はおぬしのせいではないぞ」


太公望の左腕。

番天印により失わざるを得なかった左腕。


「そんなわけない!だってあの時・・・殷郊くんは、私に押印しようとした。太公望は、それを止めようとした、から・・・私のせいじゃないなんて、そんなわけない!」


は半ば、叫んでいた。

あの光景が、鮮明に思い出される。

怖かった。

全身の力が取られ、立つことを忘れそうになったほど。


太公望が、死んでしまうのではないかと。




「・・・じゃあ仮にだ。仮にだぞ。もし本当にあれがおぬしのせいだったとしても、わしの腕くらいの命に比べれば・・・安いものだぞ?
 おぬしは兵たちをしっかりと守ったのだし、おぬしが生きていて・・・わしは安心しておる」



太公望の言葉に、はゆっくり、顔を上げた。

そのの頭に、太公望は二、三度度元気づけるように優しく手を置く。



それが引き金となったように、枷が外れたように、

ぽたぽたと、雫が落ちた。


「・・・ごめん・・・」


は呟き、再び下を向く。


涙は後から後から、頬を伝っては流れ落ちるばかり。

何度拭っても、止めどなく溢れるばかりで。


太公望は、の頭に置いていた手を背中に回し、自分の方へ引き寄せた。


は最初、何が起こったのか分からなかったのだが、やがて理解し。


「・・・太公望・・・・ごめん・・・ごめ・・なさ・・・」


「・・・・分かったから、泣くでない


泣き止まない。

泣き止みたくても、体がそれを許そうとしない。

止まらなかった。

太公望はしっかりと抱き締め、なんとか泣きやんではくれないか、と。

それでも彼女を抱き締められるのは、彼女が生きているという証拠で自分も生きているということ。

安心が、体中に広がっていった。


も同じように。

今までの不安や悲しみが、だんだんと薄らいでいくのが分かった。

きっとそれは、彼がそばにいるからで、その温かさ。

心強さ。





































      



































この話、最後が妙に夢っぽくて嫌だ。(何で

さんの宝貝の力について書けたから良し。

そういう自己満足。




初執筆...2004,05,05
改稿...2005,03,13