「――妲己が、朝歌の人たちを?」 「ええ、これから本格的に戦争が始まりますよ」 「・・・そう・・・」 は眉根を曇らせた。 とうとう全面戦争が始まるのだ。 心が沈んだ。 そんなことは、本当のことを言ってしまえば望んでなんていないから。 いくら妲己を倒すイコール戦争だと言っても、人々が血を流すのは嫌だ。 「では、私はこれで失礼するとしましょう」 軽い口調でそう言って、その人の体は、乗っている霊獣と一緒にふわっと浮かんだ。 「あ、待っ・・・申公豹!」 「・・・何か?」 「、尻尾掴むのはやめてくれる?ちょっと痛いから」 「あっと、ごめんね」 パッと、掴んでいた黒点虎の尻尾を手から離した。 「何で・・・そういう情報を教えてくれるの?」 言いにくそうに俯き加減では尋ねた。 「おや、こういう情報は役に立ちませんか?」 「そういうわけじゃないんだけど・・・でも、あなたは最強の道士で、しかも妲己側の人間・・・でしょ?何でそんな人が私なんかに情報を持ってきてくれるのかな・・・って思って・・・。 それに、善意でそういう情報持ってきてくれるなら太公望でも良くない?」 もっともなの言い分に、申公豹は黒点虎に乗ったまま表情を変えずに言う。 「そんなに気になるならヒントを出さないでもないですが」 「ううん、言いたくないなら別に良いの」 「聞きなさい」 「・・・言いたいんだ」 言いたいのだろう。 は苦笑して申公豹を見た。 「私は、とある人に早く『借り』とやらを返したいだけなんです。その為には、早く事を進めてもらわなければなりません。だからこうやって情報を持ってきてあげているのですよ」 「・・・・わけ分かんないなぁ・・・」 「私にだって『借り』やら『貸し』やら、最初は分かりませんでした。まぁ、今はもう大体の見当が付きますけどね」 フッと笑って、申公豹はを見た。 「何?見当?ちょっと、もう少し詳しく・・・」 「そういえば最近、雷公鞭を使ってないんですよね。ほら、やはり強力な宝貝でしょう。うっかり地面に穴でも開けてしまったら大変ですし。 しかし、気分転換とでも称して使ってあげないと、雷公鞭もさぞ退屈していることでしょうね。 良いことを思い付きました。、あなたが私と対決して私に勝てば、今のがどういう意味なのか教えて」 「さようなら申公豹!会ったことはないけど、妲己や紂王によろしくね!」 は一瞬のうちに申公豹と黒点虎から50メートルは離れた場所に移動し、元気よく手を振っていた。 「・・・まぁ良いでしょう。それに、他人から聞くより自分で理解する方が、より楽しめるでしょうし」 そして、が物を言う前に、黒点虎は空高く上がっていってしまった。 周城の一角。人がほとんど寄りつかない、城の陰に隠れている場所。 一人佇んでいるは、 「・・・申公豹が最強の道士だってこと、忘れてたわ・・・。危ない危ない」 小さく溜息を吐いて、 「情報は太公望に報告ね」 踵を返し、城の中に姿を消した。 情報源 「っていうわけでー、妲己は朝歌の人たちを煽動して全面戦争を始める気だろうって」 「そうか・・・ふむ、やはりそう来たか」 太公望、もとい周の軍師の部屋。 沢山の資料や本や巻物で溢れかえったこの部屋は、作戦を立てる際や、その他多目的に使われるようになってしまっている。 時々、天祥が遊び場として使っていることが玉に瑕だ。 「・・・しかし・・・どうしておぬしはそのような情報を知っているのだ?」 訝しげな表情で、太公望は部屋の椅子に座っているを覗き込む。 「うーん、前も言ったように企業秘密だか」 「他の者に怪しまれるぞ」 「・・・うーん・・・」 当然といえば当然のことだ。 常にこの周城に居るというのに、何故そんなにも遠く離れた朝歌の情報に長けているのか。 がたまに朝歌の情報を持ってくるということを知るものは太公望しか居ないが、他の人間が知れば、何故なのかと怪しむだろう。 「というか、わしも常々変に思っておったのだ。どこからそんな情報を手に入れる?」 は太公望の顔を驚いたように見上げ、苦笑する。 「・・・そうだよね。話そう、話すわ。っていうか、そこまで秘密にしなきゃならなかったわけでもな・・・くもないかな・・・」 「・・・。・・・ややこしい」 太公望の問いに、はもう一度短く唸り、 「なんか・・・申公豹が教えてくれるの。姜妃が自害したっていう情報も申公豹からよ。教えてくれる理由は・・・よく分かんないんだけど・・・」 「申公豹が?」 こっくり、は頷く。 「『借り』を返したいんだって。誰に、っていうのは詳しく教えてくれなかったけど・・・申公豹の言うこと意味分かんないしさ。とりあえず、事を早く進めてもらいたいから私に情報教えて、太公望が動きやすくなるようにしてくれてる・・・みたい」 「確かに情報があった方が動きやすいが・・・申公豹はおぬしに教えて、それで帰るのか?」 「うん、何事もなかったかのように帰る。 最初は申公豹が最強の道士だなんて知らなかったから、太子2人が仙人界に連れてかれるとき申公豹が最強の道士だって知ったのよね。 自分の素性も言わないで、私はただ申公豹って名前だけ知ってて、姜妃のこととか太子のこととか教えてくれてそれで最初は帰ってった。 今回は、その情報と貸し借りの話して帰ったよ」 わけ分かんないのよねぇ。本当に何考えてんのか。 は溜息を吐く。 「まぁ・・・情報は多いに越したことはない。現に助かるしな。申公豹も特に何もしないのなら・・・しかし、警戒はしておけよ、」 「分かってますとも」 笑顔を向けて、は手を振る。 「ところで。それはわしの椅子だ」 「良いじゃない。別に座っても何もしないでしょ?」 「仕事が終わってないのだ。おぬしも早く戻って終わらせぬか」 「私はもう終わったよ。ノルマ達成」 にっこり、は笑う。 「・・・な、終わったのか?あの膨大な数の・・・?」 「もちろん。太公望も本気出して頑張れば?そろそろ周公旦さんが来そうな気配するし」 バン! 「・・・太公望、仕事は片付きましたか?」 「うげっ 周公旦!」 「すごい私、予感的中」 顔に不釣り合いな、周公旦の必殺武器「ハリセン」を手に持ち、勢いよくドアを開けて周公旦が入ってきた。 「な、何しに来たのだ?残念だがわしはまだ仕事中・・・」 「追加です」 どっさり。 周公旦の後ろには沢山の本やら何やらを両手一杯に抱えた武成王が立っていた。 「なーっ!?」 「あはは!頑張れ太公望!」 どこから取り出したのか、白い旗を力一杯楽しそうに振る。 「あなたにもです、。しっかりと同じ量が。あなたは部屋にいなかったので、勝手に机の上に置いてきました」 「なーっ!?」 「・・・フッ・・・お互い大変よのう」 ポン、と慰めるようにの肩に手を置く。 「せ、せっかく終わらせたのに・・・!何で私まで太公望くらいの仕事があるの!?私、軍師じゃないよね!?」 バン!と机に手を付いて、講義する。 確かには軍師ではない。 太公望の手伝いをするため、いるだけだ。 「あなたは太公望の、必然的に軍師の秘書のような立場にいるのです。仕事が多いのは当然でしょう」 キッパリと周公旦は言う。 その言葉に、少しが揺らいだ。 「・・・秘書・・・言葉だけなら、なかなか惹かれる役職なのに・・・」 「そういえば太公望どのにどの。陽ゼンどのの要塞が完成したって聞いたぞ」 太公望の机に山のような書類を置き終えた武成王が、先程聞いた報せを思い出して言った。 太公望は、陽ゼンに要塞を造る任務を与えておいたのだ。 「おお!完成したか!それは見に行かねば!おぬしも行くであろう、?」 「・・・あっ そりゃもーもちろん!陽ゼンさんのとこの要塞行くんなら今日はもう仕事は出来ないかな?残念ねっ 太公望!」 「うむ、真に残念だが、仕方あるまいな周公旦?」 にこにこと2人は笑顔で周公旦を振り返る。 無表情、眉1つ動かさない周公旦は、ゆっくりと口を開いた。 「持って行って下さい」 手にはハリセン。そして仁王立ち。立っている場所はドアの正面。 怖い。 「・・・持っ・・・?し、しかしそれは重」 「持って行かないと言うのであれば、ここからは出しません。持って行くか、残ってここで終わらせるか」 「・・・・ご主人、さん、・・・これは重いっス・・・」 「これでも、この3分の1は昨日のうちに終わらせたのだぞ。疲れたのだぞ。 ・・・仕方なかろう、周公旦のアホが終わらせろという仕事なのだから。あやつに逆らうとどうなるか・・・」 「・・・ごめんね四不象ちゃん、これも私たちを救うためだと思って耐えて!」 多くても2人しか乗せたことのない四不象。 しかし今回は2人の仕事分の資料やらをぶら下げて飛んでいる。かなり重い。 飛んではいるものの、ふらふらよろよろ。 「今度四不象ちゃんが欲しいもの買ってあげるから!ね、太公望!」 「う、うむ!」 買収だ。 「・・・ラ、了解ッス・・・!」 重さに耐え、それに気付かない四不象。 「あ、見えて来たよ!陽ゼンさんの要塞!」 荒れた岩場のような場所。 そこに堂々とそびえ立つ大きな要塞が見えた。 「ふむ、やはり楊ゼンに頼んだのは正解だったようだな」 「そういえば蝉玉ちゃんもいるんだよね?ここ」 「・・・ああ、城壁の偵察をすると大声で宣言しながら楊ゼンと一緒に行っておったからな」 すでにスパイではなくなっているような。 思い切り蝉玉は馴染んでいた。 「師叔、さん!」 城壁に下りるとすぐに、楊ゼンが笑顔で出迎えてくれた。 「お疲れ様、楊ゼンさん」 「さすがよのう楊ゼン。これだけ堅固な要塞を造り上げてしまうとは」 「ここは殷と周の境界ですからね。それ相応の物を造ってみたつもりです」 高い高い城壁の上、一望できる眺めもなかなかのものだった。 岩ばかりだが。 まあ高いところから眺めると、下から見る景色とは違って見えるものだ。 「そこの小僧が太公望かーっ!?」 岩場の中、殷側の地から大きな声が響いた。 「そしてその隣にいる小娘がかーっ!?」 声はさらに言った。 「・・・小娘・・って、私?」 「誰だ・・・?」 「――ていうか師叔・・・あれって・・・」 「むっ あれは・・・」 高い城壁の上から、地面に立っているその人物を見つけた。 人、というよりあれは。 「・・・霊獣?可愛い!」 とても可愛らしい顔をした、霊獣なのだろうか、生きものが。 そしてその頭の上に。 「なっ なんという小さい人・・・」 「うわ、ほんと・・・小さい・・・」 「違いますよ、あれはあの生き物が大きいんです」 人間が乗っていた。 なにぶん生き物の方がでかいので、頭の上に乗ったその人は小さく見える。 「太公望、よ。私の名はケ九公!」 「そしてボクは妖精の竜鬚虎ニャ」 「ニャ!?あの生きもの『ニャ』って言ったよ太公望!」 「・・・嬉しかったのか?良かったのう、」 あの生き物は霊獣ではなく妖精らしい。 「ニャ」という猫のような語尾を付けて喋っている。 その語尾と容姿が、見事にのハートを捉えた。 「天子・紂王の名により汝らの主・姫発の罪を問いに来た!天子たる紂王を無視して勝手に『武王』を名乗りその上叛臣黄飛虎を庇護しさらには民を煽動して朝歌を攻めようとしている!」 「長いね」 「長いのう」 ケ九公の演説は長ったらしかった。 「天も赦さざる大逆!捨ておけん!私の剣を受けてみよ逆賊!!」 可愛らしい竜鬚虎と、迫力のある表情に一変したケ九公。 差が激しすぎる。 「敵・・・らしいが、こういうタイプは何を言ってもきっと無駄だのう・・・」 「ええ、説得は無理でしょう」 きっと、突っ走る性格だと思われる。 3人はそれを察知した。 と、その時ふとは思った。 「あれ?でも『ケ』ってさ、確か・・・」 「きゃー!ちゃん!来てたのー!?」 左手にはレポート用紙で右手には鉛筆を持った、スパイだったはずなのだが、いかにも取材してますというスタイルの 「あーっ蝉玉ちゃん!久しぶりね!」 ケ蝉玉がたちの姿を見つけて走り寄ってきた。 「大変だったでしょ?城壁造りの手伝い」 「ううん、あたしは造ってる人たちに取材したりで、あんまり手伝ってはないのよ」 というかスパイが手伝うこと自体おかしい。 しかも取材ではないはずだ。 そんなことはお構いなしに、と蝉玉は相変わらず仲が良い。 きゃあきゃあ言いながら話に花を咲かせていた。 「そういえば、今聞き覚えのある声を聞いた気がしたのよ!」 城壁の上に上ってきた目的を思い出したらしく、蝉玉はきょろきょろと辺りを見回す。 「私たちじゃない?」 「・・・うーん、いや、違うと思・・・・って、あれ?――パパ!?」 城壁から見下ろしたそこにいる生き物と人の姿を蝉玉は捉え、驚いて声を上げた。 「やっと気付いてくれたね蝉玉ちゃん!そうだよパパだよ!」 ケ九公の表情がまたもや一変して、笑顔になった。 蝉玉が自分の姿を見つけた途端だ。 というか、気付かれるまで待たずとも良いだろうに。 「蝉玉ちゃん、スパイ活動ご苦労だったね!さぁこっちへおいで!」 「うん!」 蝉玉は駆け出す。 と、 「スパイさん!」 四不象が引き止めた。 「敵になってしまうっスか?」 「蝉玉ちゃん・・・」 四不象とに見つめられ、蝉玉の笑顔が歪んだ。 そうだ。 蝉玉がいま父親のところに行けば、敵同士になってしまう。 今までも勿論敵だったのだが、はっきりと敵対していることがなかったから。 「・・・ごめんねちゃん、スープーくん。あなたたちと別れるのは辛いけど・・・これも、あたしの宿命ってヤツ!?」 一気に蝉玉は城壁から飛び降りた。 「蝉玉ちゃん!・・・これからは敵同士なのね・・・。 ・・・・良いわ、これもきっと運命・・・頑張ろう、四不象ちゃん。これを乗り越えればきっと私たちは強くなれるわ!」 「強くなるっス!!」 「・・・アホか・・・。まぁ良かろう、あいつら弱そうだしのう。それにスパイの宝貝は戦闘に向かぬ」 「な、失礼ね太公望!蝉玉ちゃんに負けたくせに!負けたくせに!」 「二度も連続して言わずとも良かろう!それにあれは不可抗力だ!」 スパイをどうするか否か、それを決するために以前戦った太公望と蝉玉。 勝ったのは蝉玉。 蝉玉の苦手な鳥を、巧み・・・かどうかは謎だが使って太公望はその闘いに挑んだ。 なのに負け。 その日から蝉玉は公認スパイとなっていたのだ。 「ですって!そんなわけで竜鬚虎、やっちゃって!!あ、ちゃんとスープーちゃんには当てないようにねっ」 太公望とが言い争っている中、蝉玉の大きな声が響いた。 「分かったニャ!」 「なっ!?」 蝉玉の一声で、竜鬚虎が高くジャンプする。 「きゃー!飛んだ!太公望、あれ飛んだ!」 「嬉しいのか?良かったのう、」 の変わりように、太公望は溜息を吐いた。 飛び上がった竜鬚虎は地面に軽やかに着地する。 先程より城壁に近付いた。 そして、大きな尻尾を勢いよく振った。 「う、わ・・・!」 「逃げろ、!」 大きな岩が、竜鬚虎の尻尾に当てられ、勢いよく宙を舞う。 あんなに大きな岩場が、いとも簡単に崩れていく。 宙に上がった岩は城壁目がけて飛んできた。 凄まじい音がして、岩はどんどん壁にあたっては地面に落ちていく。 城壁はすでに所々が欠けてしまった。 欠けたというより、大損害に値する。 「これではせっかく造った城壁が壊されてしまうではないか!楊ゼン、あやつらを倒すぞ!」 「嫌です!」 「・・・へ?」 「スパイの宝貝は恐ろしい・・・あれに当たって濃くなった自分の顔なんて・・・嫌です、僕には出来ません」 「んな・・・。・・・は」 「私、蝉玉ちゃんの友だちよ」 「・・・・」 「どうしたんだ、太公望どの!」 「お師匠さま!さん!」 バタバタと慌ただしく、沢山の人間が城壁の上に上がってきた。 あんなに凄まじい音と揺れがあったのだから当たり前だろう。 その先頭に立っていたのは武成王。 昨日、太公望との部屋に大量の仕事を置いてすぐにこの城壁の場所へと馬で来ていたのだ。 そして武吉もいた。 武吉は天然道士ならではの怪力を生かして、この城壁造りを手伝っていたのだった。 「実はスパイがのう・・・敵側にはっきりと付いたのだ。このままでは城壁を壊されてしまう。倒すのを手伝ってくれぬか?」 そしてそこのメンバーは全員、蝉玉とその横にいる見知らぬおじさん、それからその2人が乗っている大きな生き物を見た。 「や・・・やだぜ、俺に女の子や動物と戦えってのかよ」 真っ先に言ったのは武成王。 「あんな怪獣に普通の人間が太刀打ちできるか!」 次に言ったのは南宮逅。 確かに見ようによれば怪獣だ。 「そうだそうだ!」 「スパイは可愛い!」 兵士達の声。 確かに蝉玉は可愛いが。 「・・・。・・・うーむ、困ったのう・・・」 その間も蝉玉、というか竜鬚虎の攻撃は続いている。 揺れる城壁の上、どうすれば良いのか。 どんがらがっしゃーん!! 「!?」 「な、なんだぁ!?」 いきなり、城壁と竜鬚虎の間に何かが落ちてきた。 しかも、かなり古典的な音をたてて。 竜鬚虎の投げつける岩に当たったようだ。 「いやぁぁっ!鳥!?鳥に当たったの!?」 鳥嫌いの蝉玉。 悲鳴を上げて、竜鬚虎にしがみついた。 「いや、違うみたいだよ蝉玉ちゃん」 ケ九公は言って、そしてその場に居合わせた全員の視線がそれに集まった。 「何か」が落ちたその場所には、もくもくと土煙が上がっている。 「いててて・・・一体何が・・・」 土煙の中からうめき声が聞こえた。 風が吹いて、土煙が晴れる。 中にいたのは 「・・・あれは・・・土行孫?」 太公望の見知った人物・・・というか生き物、だった。 「土行孫?だれ?」 「そういえばは会ったことがなかったのう。あやつは土竜孫の弟子の土行孫だ」 「ああ、道士なのね」 霊獣なのかと思ったわ。 は呟いた。 少々失礼である。 と、蝉玉が土行孫を見るやいなや竜鬚虎から降り立った。 そして、しばしの沈黙。 心なしか、見つめ合っているような。 周りの人間はそんな2人を見守った。 先に口を開いたのは土行孫だった。 「うおお!いい女発見!早速ドライブに誘わなければ!!」 「・・・は?」 「土公孫・・・あやつ・・・」 変わってないのう、太公望は溜息を吐く。 「土行孫って・・・どういう人なの?」 「あのまんまだ。姫発に少し似てるかのう・・・」 「・・・なるほど」 惚れやすいというか、女性を見ると突っ走ってしまうというか。 も納得した。 いきなり会ったばかりの人間にあんなことを言うなんて、姫発に通じるところがある。 「へい彼女!おいらの車で虹の彼方まで飛んでいこうぜ!」 「ぼくは妖精だから空まで飛んでいくのは無理ニャ」 土行孫はいつの間にか竜鬚虎に乗っていた。 そして本気だったのか。 蝉玉をドライブに誘う。 姫発よりも少々行動が早いようだ。 「・・・ねぇ、あなたお名前は?」 蝉玉が土行孫に尋ねた。 そういえば名前すら土行孫は名乗ってないのだ。 「おいらは土公孫だ!」 「土公孫さま!可愛らしいお方ね!」 蝉玉は笑顔になった。 「・・・は?」 全員が、それぞれ我が耳を疑った。 蝉玉は今なんと言った? しかも ドスッ 「ぐっ!?」 土公孫が呻く。 蝉玉が右手で作った拳を勢いよく土公孫の腹に一発。 即座によろめいた土行孫を蝉玉は腕の中に収めた。 土公孫は小さい。 「・・・せ、蝉玉ちゃん?」 我が娘の、分からない行動にケ九公は狼狽えた。 「パパ聞いて!あたし、この人のことが気に入ったからお付き合いをするわ!」 この人。 何処を見ても、その相手は土行孫意外考えられない。 蝉玉のそばに今いる人と言えば土公孫だ。 近くというか、腕の中。 太公望やは、土行孫を蝉玉が殴ったとき、土公孫を人質にでも取るのかと咄嗟に思った。 しかし違う。 「だってこの人、あたしのことをいい女だって言ったもの!これはプロポーズと同じことよね!」 それも、かなり本気だ。 そしてここで気付くこと。 蝉玉も、突っ走ってしまう性格なのか。 「はっ 離せ!」 今までに味わったことのない女性の反応。 いくら誘ったからと言っても、土行孫はなんとなく悟った。 ――こいつ、ルックスは良いが変な女だ! そんな土行孫のカンは当たっているようだ。 「変なことになったね、太公望」 「・・・・うむ・・・」 確かに変なことになった。 これがもし普通の男女間での問題であれば、それはそれなりに敵同士の悲しい恋物語、のようなことになるのだろうが。 城壁の上で呆気にとられている周の一同。 下では、蝉玉と土行孫のやり取り・・・何というか、土行孫が蝉玉から逃げている。 身の危険を感じたようだ。 女性から逃げている土行孫も珍しいものだろう。 蝉玉の方は思い切り楽しんでいた。 戻 前 次 変な話ですね。(… 初執筆...2004,01,29頃 改稿...2005,03,14 |