突如、に呼び出された姫発と天化は、城の廊下の一角に集まった。


「んで?何の用なわけ?ちゃん」


姫発が聞いた。


「ちょっとね、太公望が何やらかんやらで忙しそうだから私が伝えようってことになって。まず現状なんだけど。えーっと、この周には私たち崑崙の仙人が手助けしてるでしょ?
 だからきっと殷には金鰲の仙人が付くと思うのよね。そして、付いたからにはここに戦いに来る」


「戦が始まるってわけだ」


「そういうこと。しかも普通の戦争じゃなく、仙人が沢山絡んでくる。大きな危険も増えるってことなのよ。特に姫発、王になったあなたにはね」


姫発を指差す。


「ってなわけで、この城に突如敵が攻めてきたとき、誰が姫発の護衛をするかを」


「はーいはいはーいっ!推薦したい人がいまっす!」


何故か、姫発が真っ先に手を挙げた。


「・・・姫発、何で推薦・・・。まぁ良いけど、誰?」


脱力しながらもは聞いた。


「もっちろんちゃ」


「却下」


満面の笑みで発言した姫発を、は無表情で押さえ込んだ。


「まぁ、これにもちゃんと理由があるんだけど」


表情を緩めて、は続ける。


「言っておくと、太公望は一応私たちをまとめる役目だから護衛ってのはやめた方が良いのよね。私でも本当は良いんだけど、私は守るだけで攻撃ってのがしにくい宝貝だから、力で考えて無理なのよ。
 そこで天化くん。実はあなたに護衛の仕事をやってもらいたいんだけど、どう?」


「・・・俺っちが?」


突然指名された天化は驚いて自分を指差した。


「そう、天化くん」


は頷いた。


「太公望と武成王さんが太鼓判を押すくらいの天化くんだから。姫発も強い人が護衛してくれた方が安心でしょ?」


「まぁそりゃそうだな」


姫発も納得した。


「俺っちは構わねぇけど」


「よっしゃ決まりだな!んじゃちょっくらこれからの護衛頼むぜ!」


「おー、任せるさ。王さま」




























青天の霹靂  前




























「・・・・。・・・何あれ」


は呟いた。


「魚だ魚!でっけぇ魚だちゃん!」


城の廊下から見ることが出来る城壁の所に大きな物体。


「魚?なるほど。どうりであんな可愛らしい顔して・・・・って魚が城壁食べるわけないでしょ!」


「ナイスちゃん、ノリつっこみだな」


満足げに姫発は笑った。


「その前にあれ足生えてるから魚ってのは有り得んさ」


「たぶん宝貝・・・よね。操ってる仙人は見えないけど・・・」


「何だ何だ、宝貝ってことは敵襲か?殺されるのか!?」


「落ち着いて姫発。一国を治める王がそれでどうすんのよ」


はため息をつきながら言った。

天化は姫発とのやりとりに、気付かれないように笑っていた。


「・・・ん?なんか向こうから人来るさ」


、姫発、天化のいる長い廊下の向こうから、見知らぬ四人がこちらに向かってゆっくりと近付いてきた。


「姫発、知り合い?」


「いや、知らねぇ。何だい、あんたらは?」


姫発はその四人に尋ねた。


「――武王姫発、我々と来てもらうぞ」


4人組の先頭に立っていた人物が、突如長い剣を構えて走り寄ってきた。


「わ・・・っ 下がって姫発・・・」


は宝貝を掴んだ。



ガキン!!



凄まじい金属音が響いた。


「・・・おまえは・・・!」


自分の剣を止められたその人物は、自分の前に立ちはだかった人間を見た。


さんと太公望師叔の言いつけでね。王さまを守るのは俺っちの役目なのさ」


よりも一歩早く、天化は宝貝で敵の剣を弾いていた。


「あ、ありがとう天化くん」


「護衛が俺っちの仕事だかんね」


「・・・てっ・・・敵の仙人なのか、こいつら?」


我に返ったように、姫発が呟いた。


「うぁああ殺される!」


「姫発、騒がないでよ」


「ここは俺っちに任せて、さんは王さまを安全な場所に連れてってほしいさ」


宝貝を敵の方に向けたまま、天化は言った。


「で、でも天化くん、私こんな四人も来るなんて思わなかったから・・・」


「いやだぁ!やっぱり死ぬのかぁあ!!」


「もーうるさいってば!」


「俺っちなら大丈夫さ。ほら早く行って!」


天化は言って、の背中を左手で軽く押した。


「ほう・・・面白い。黄天化の莫邪の宝剣か。偶然、俺の宝貝も剣だ。俺の青雲剣とおまえのそれとどちらが強いか試してみたい」


天化に剣を弾かれたその人物が言った。


「早く行くさ!」


「天化くん、無茶しちゃ駄目だからね!やばいって思ったら迷わず逃げるのよ!これ、一応命令だからね!急いで太公望たち呼んでくるから、無理に足止めしようなんて考えなくていいから!
 じゃ、姫発走って!!」


は天化に強く告げると、姫発の腕を引っ張って駆けだした。

後ろは振り返らなかった。





「ちょ・・・っ ちゃ・・・足速・・っ!」


「早くしないと天化くんが危ないでしょ!出来るだけ急いで!!」


姫発の腕を掴んだまま、は猛スピードで走っていた。

城の敷地内。

廊下から外へと出て、建物と建物の間を縫うように走った。

そして二人は広い場所へと出る。

今までいた建物は後方に見えることになったはずだ。


「・・・な、心配なら・・・何で置いてきた、んだ・・・?」


息絶え絶えに姫発は聞いた。


「私と天化くんが2人あそこで戦って姫発が1人で逃げたとして、もしあの四人の誰かが姫発を追ったら困るでしょ!?あのでかい変なのの動向も気になるし!
 それより4対2なんて難しいしさ、・・・でも4対1の方がもっと・・・・あーもう早く誰か来て!」


どうしてこんなに人がいないのよ。

兵士はどうしたの兵士は。

は心の中で叫んだ。


「・・・と、とりあえず、ちゃん・・・スピー、ド落とし・・・・うっ!?」


ドン、と姫発は突然止まったにぶつかった。


「・・・・な・・・急に止まって・・・どしたんだ・・・?」


「そっか・・・あのでかいのは囮。だからみんなあっちの方に目がいって、こっちには人がいないんだ。大きいからって桁外れの攻撃力を持ってるわけじゃない。
 だから、あの四人の方が大本命!天化くんホントに危な」


ぜいぜい言う姫発をよそに、は勢いよく後ろを振り向いた。


「残念、手遅れだよ。崑崙山の道士、


が振り向いたそこには、先程の敵の3人が立っていた。


「・・・3人・・・?1人少ねぇ・・・」


息の整ってきた姫発が言った。


「天化くん・・・天化くんは」


「あ!ちゃん、あそこ!」


姫発が屋根の一つを指差した。



そこには



「・・・!天化くん!!」



真っ赤な血が至るところから流れ落ちて倒れている天化の姿があった。

その天化の傍らには剣を持ったあの敵がいた。

嘲笑うかのように、こちらを見ている。


「残念でした。黄天化はやられちゃったよ。あとは君を捕まえれば武王はこっちのものだね」


と姫発の正面に立っている3人の中で一番背の低い人物が言った。


「大人しく引き渡してくれれば俺たちは何もしないぜ」


大きな弦楽器のような武器を持った人物が言った。


「そうはいかないわ」


は羽衣宝貝を強く握る。


「羽衣宝貝、。攻撃力は劣るが防御力は最高の宝貝だと聞いている。残念だがその宝貝だけじゃ俺たちには勝てないよ」


真ん中にいた人物は大きな傘のような変わった形の宝貝を持っていた。


「使い方によってはこの宝貝すごく強いんだけど?」


は微笑む。


「姫発、今のうちに逃げて太公望たちを呼んできて」


後ろを振り返り、は言った。


「・・・え、でもちゃん」


「いいから早く。ここは私が足止めしとくから」


強い口調では押した。


「・・・分かった」


姫発は頷いて、駆けだした。


「あ、武王が逃げるよ」


背の低い人物が、姫発を追いかけようとした。


が、突如現れた何かによって道は遮られた。


それは、大きな風の壁。

その辺一体を覆い尽くすような、城の屋根よりも高く大きな風の壁がいつの間にか出来上がっていた。

大きな、風の渦巻くような音も響いていた。


「この風は、太公望が作り出す打風刃と同じような物がいくつも重なり合ってるって考えてもらうといいかな。
 つまりこの風を無視して通ろうとすればいくつもの刃がその体を襲うことになって、ただじゃ済まない。それでも通りたければ通っても私は止めないけど」


にっこりとは微笑んだ。


「・・・なるほど。それじゃおまえを倒せばこの壁も無くなるのだな」


は背後からした声に驚き振り向いた。


天化を倒した人物だった。

いつの間にか、屋根の上から降りてきていたのだ。


「・・・まぁ、私を倒せば消えるわね、この壁は」


「では早いところ倒すとしよう。武王が仲間を連れてこられては迷惑なのでな」


敵が剣を構えた。

も風の壁に背を向ける。


間髪入れず、敵が剣を振った。


バン!と、の周りを包んだ風が剣を弾いた。


「・・・やっぱり、その剣はいくつも切っ先が出るのね。だから天化くんもやられた」


「その通り。おまえのように全身を護れば剣が届くことはないが、それで力がいつまで持つかな」


敵は剣を構え直し、に向かってきた。

はそれをかわして、横に避けた。


「おまえの位はまだ道士だが、力で言うとすでに仙人級なのだろう?
 その宝貝を使う能力は異常に長けていると、おまえは金鰲でも一部に名の知れた道士らしいしな。守ることに拘るのには何か理由があるのか?」


避けたに目をやって、言った。


「特に理由なんてないよ。ただこの宝貝と相性が合っただけ」


はキッパリと突き放した。


「そうか」


剣が振られた。

先程よりも強い力で。


「・・・!?しまっ」


鋭い音がして、風が周りに弾け飛んだ。


反射的に一瞬目を瞑ってしまい、ハッと目を開けると首筋に剣の切っ先が向けられていた。


「・・・・油断、しちゃったよ」


は苦笑を浮かべた。


「風を止めてもらおうか」


はじっと睨み、唇をかんだ。

そして、風の壁はすぐに普通の風に戻り、消えていった。















「ちくしょう、どこにいやがる宝貝使い!またあれが動き出す前に見つけねぇと!」


あれ、とは大きなあの宝貝のこと。


「仙人を見つけるんですね、お師匠さまっ」


「うむ、頼むぞ武吉」


大きな宝貝が動きを止めている中、太公望、武吉、武成王は敵である仙人を城壁のところから探していた。


「あっ!お師匠さまあそこ!」


武吉が指を指して大声を出した。


指差したのは城の屋根。

その屋根の上には、姫発と、それから敵と思われる3人の姿があった。


「姫発、!!」


太公望は四不象に乗ったままそこに飛んでいった。


「すまねぇ太公望!」


「・・・・ごめん、捕まっちゃったよ・・・」


「姫発、・・・。それに天化は・・・?」


その太公望の言葉に、姫発は表情をゆがめ、は俯いた。


「・・・あ、・・・あそこに・・・」


答えないの代わりに姫発がそっちを向いた。

天化の倒れているその屋根を。


「天化!!」


武成王が叫んだ。


「この三人の命と引き替えに周の道士は皆投降してもらう。太公望と黄飛虎、それとそこの武吉という天然道士の三人だ」


剣を背中の鞘の中に収めたその敵は言った。


「・・・分かった」


太公望は頷いた。


「ただし、あの巨大な宝貝で民を傷つけるのは止めよ。それを約束できぬならわしは三人を犠牲にしてでもおぬしらを殺す」


太公望は静かに言い放った。


「――約束しよう」


ためらいなく、考えもせず、その敵はそう返した。




「スープーは仙人界に戻れ」


「えっ!どうしてっスか!」


「ナタクと楊ゼンを呼んでくるのだ」


太公望は声を潜めて四不象に言い渡した。


「わ・・・分かったっス。行ってくるっス!」


そして、四不象はスピードを上げて上空へ向かって飛んでいった。


太公望とは何かに祈るかのように、見えなくなるまで四不象を見上げていた。

























      



























初執筆...2003,12,19
改稿...2005,04,17