意識不明だった姫昌が再び目を開けたのは、崇城から帰ってきた数日後のことだった。 「――姫昌さん?気が付いたんですね?」 「・・・、か・・・?ここは・・・西岐城・・・。そうか・・・帰ってきたのか・・・」 姫昌は天井を見つめたまま言った。 「発と、太公望は・・・」 「ボク呼んでくるっス!」 傍で浮いていた四不象は言うなり、飛んでいった。 「それにしても良かったです姫昌さま!もう・・・目を覚まして下さらないかと思いました!」 の隣で涙ぐみながら武吉は言った。 姫昌は、そんな武吉を見て微笑むと、 「ありがとう・・・」 そう、一言だけ言った。 「おやじ!!」 「姫昌さん!呼んできたっスよ!」 慌ただしい音をたてながら太公望と姫発に武成王、崇城から付いてきていた崇黒虎と、それら全員を呼びに行っていた四不象が部屋に入ってきた。 姫昌は一斉に自分の顔を覗き込んだ一同1人1人の顔を順に眺めた。 「発・・・太公望・・・」 「姫昌・・・」 「ここにいるぜ、おやじ!!」 姫発は身を乗り出した。 「姫昌よ、安心せい。崇黒虎は西岐に強力すると言ってくれたぞ」 「西伯候!これで東西南北が力を合わせ朝歌を包囲出来ましょう!」 気遣いながら、崇黒虎は笑顔を作って言った。 「そうか・・・。これで、私の役目は終わりだ・・・。・・・私の最後のわがままを聞いてくれて、本当に感謝している・・・」 姫昌はの方に目をやった。 「そんな・・・私はただ、連れていっただけで・・・」 は首を左右に振りながら言った。 「戦いの準備は終わった・・・新しい国をつくるのは発・・・おまえに回す・・・」 右手を挙げながら姫昌は言った。 「おう・・・!任せとけよ、おやじ!」 その姫昌の手を、力強く姫発は握った。 「わが児よ、これからは太公望を私の代わりと思え・・・。太公望は信ずるに足ると私は見た。・・・必ずや西岐を良い方向へと、導いてくれよう」 姫昌は一気にそこまでを言うと、大きく息を吐き、目をゆっくりと閉じた。 「・・・困ったな・・・もう本当に・・・何もすることがない・・・」 そして、沢山の慕う人が見守る中、姫昌は静かに息を引き取った。 受け継ぐ者たち 「よっ さん。こんなところで何してるさ」 「あれ、天化くん。天化くんがここ来るのって珍しいね」 「珍しいって・・・さんはいつもここに来るさ?」 「毎日」 「・・・暇なのか・・?」 「うわっ 天化くん、太公望みたいなこと言っちゃって」 城の屋根の上、2人はそこに座っていた。 「そういやぁ師叔がさん探してたさ。行かんくて良いさ?」 「なんとなくめんどくさいから良いよ」 はすっぱりと答えた。 「・・・良いって・・・でもそれさん本人の意志さ・・・」 「後でちゃんと行くわよ、大丈夫大丈夫」 は笑った。 「そういやぁ王さまもさん探してたさ。必死で。行かんくて良いさ?」 「それは絶対行かない」 は無表情でキッパリと言い切った。 「姫発って格的には別に嫌いじゃないんだけど、抱きついてくるのとあの軽さは嫌じゃない?太公望までなんかピリピリしてくるしさー・・・。被害被ってるのは私だっての。 天化くん、どう思う?」 「・・・・・さん、もしかして気付いてないさ・・・?」 「・・・気付いてない・・・って、何がよ」 「・・・はは、何でもないさ」 天化は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。 2人の間を風が吹き抜けていった。 「・・・さん、結構元気そうで安心したさ」 は天化を見た。 「さっき師叔が言ってたさ、『は変なところで真面目だから』って。師叔、さんのこと心配してたさ」 天化はを見て笑った。 は微笑んだ。 「・・・まぁ、実はすごいショックなんだけどね。 もしかしたら・・・私が崇城まで連れていかなかったら姫昌さんは・・・もっと生きてくれていたかもしれない」 天化の顔からは笑みが消えた。 「・・・姫発が私のことを探してたっていうのも、私を責める為かもしれない。私は本当に、正しいことをしたんだろうかって。 私って、もしかして余計なことしたんじゃないか、仙人界に帰った方が良いんじゃないかって」 「そんな・・・そんなことねぇさ!姫昌さん言ってたの、さんも聞いただろ?感謝してるって、あの言葉に嘘偽りは無いっていうの、それくらい俺っちにも分かったさ! 王さまだってさんを責めたりしない。誰もさんを責められねぇんだから」 天化は声を張り上げてに訴えた。 は驚いたように、目を丸くして天化を見た。 そして、ふわりと笑った。 「・・・そうね、うん・・・」 天化はから目線を外して、正面を向いた。 「・・・そういや、さっき天祥もさんのこと探してたさ」 一息ついて、天化は再び口を開いた。 は天化に目をやった。 「・・・こんなにみんなが探してくれてるんだから、そんなこと言わないでほしいさ。仲間は多い方が良いなんてよく言うけど、数合わせとかそんなんじゃなくて、さんはさんとして必要とされてるんだから。 特に師叔のサポートっていう重大な役目を負ってるし。元始天尊さまがさんを選んだのは、さんが一番最適だと考えたからだろ? それに、さっき師叔ホントにさんのこと心配して探してたさ。さん本人にはそのこと絶対言うなって言われてたけど」 言っちまったさ。 ぽつりと呟いて、天化は再びを見た。 「・・・えへへ、ありがとう天化くん。ちょっと嬉しいかも」 は笑っていた。 いつものような、天化が知っている笑顔で。 「・・・えへへって・・・さん、ホントに元気なかったのか?」 「え。私だってこんなだけど色々ちゃんと考えてんだからね」 は怒ったように頬を膨らませた。 だが、すぐ笑顔に戻った。 「でも本当ありがとう。こんなこと言われたの初めてだったし。太公望も私のこと心配してたんだ。うん、それも嬉しいかな! ・・・なんか天化くんって駄目な姉を持った弟みたいね!」 あはは、と笑いながらは天化の背中を叩いた。 「・・・・こんな姉は嫌さ」 天化は呟いた。 「うわ、私これでも仙人界では天化くんの大先輩なんだけど」 が不満そうな声を出した。 そんなを見て天化は笑って、 「悪かったさ、ちゃんと頼りにしてるってさん」 そう言った。 「どうだかねぇ。 さて、天祥くんが呼んでるんだったよね?早く戻ろっと」 そう言って、は立ち上がった。 「天祥だけじゃなくて、師叔と王さまも呼んで」 「あぁ、そんなん無視無視!」 は手をぱたぱたと振った。 「・・・・まぁ俺っちには関係ないから良いけど。あとで2人から文句言われても俺っちの所為にしないでくれよさん」 「気が向いたらね!」 は天化に拳を突き出した。 「気が向いたらって、それ意味分かんねぇさ」 聞いたか聞かないかのところで、は屋根から降りた。 天化も続こうとした。 と、 「!」 大声が響いた。 「・・・げっ」 天化の眼下で、呼ばれて後ろを振り向いたの顔が強張った。 「何をしておったのだ!皆が心配しておるというに!」 「そうっスよさん。天祥くんも探してたんっスよ」 を呼んだのは太公望。 隣には四不象もいた。 「あー、ごめんってば。ちょっと上で考え事してただけよ」 「・・・まぁ良いが・・・。それより、これからのことを話し合うからおぬしも来るのだ」 太公望はの手を掴むと引っ張った。 「・・・・はーい・・・」 渋々、は太公望の歩くペースに合わせながら付いていった。 そして去り際、屋根の上を見て小さく手を振った。 それは小さな動作で、しかも長い間のことではなかったが、天化にはそれをちゃんと見ることが出来た。 だから、天化もに笑顔を返した。 の前にいたから、太公望も四不象もそれには気付かなかった。 「・・・何を1人でニヤニヤしておるのだ?」 を振り返って、太公望はが笑っているのに気付き言った。 「え?ううん、別になんでもないよ?」 それでもはずっと嬉しそうに笑っていた。 「・・・まぁ元気なのは良いことだが。無理しなくて良いのだぞ?」 太公望はまた進行方向を向いて歩を進めた。 一瞬、は驚いたようにきょとんとした。 が、すぐに満面の笑みになり、 「ありがとう太公望っ!」 は後ろから太公望の腕に抱きついた。 「うおっ!?」 勢いが良すぎて、太公望は前に転けそうになった。 「危ないであろう!」 「あはは、ごめんなさい」 そして、心配してくれてありがとう、と。 そんな下の様子を見ながら、天化は屋根の上、誰にも知られずに笑っていた。 良い天気、晴れた空の下。 戻 前 次 天化夢ですか。(うわぁ・・・ 初執筆...2003,12,11 改稿...2005,04,17 |