武吉の怪我も無事治り、も傷口に包帯を巻き終えて太公望の元へと2人は向かった。

太公望は城壁の上で1人座り込んでいた。


そして太公望の元へ着いたときには既に、対・魔家四将の計画が実行されていた。



「武吉・・・おぬし、怪我は?」


足に怪我を負って上手く走れないを背中に背負って走ってきた武吉を見て太公望は驚いた。

両足に深い傷を負っていたはず。

それが跡形もなく消えており、しかもいつもと変わらぬスピードで武吉は走ってきたのだ。


「もう治っちゃいました!」


「すごいでしょ?いきなり武吉くんが「治った!」なんて言って包帯取ったら、ホントに傷が無くなっちゃってるの!」


武吉の背中に背負われたままのは力説する。


「・・・、おぬしはまだ治っておらぬよな?」


「当たり前でしょ、相変わらず痛いです。しかも2カ所だし」



武吉の背中から降りながらは傷をさする。

そこには包帯が巻かれていた。



「えーと、あれがナタクね。それであの白鶴は楊ゼンさん。そしてあの黒いのは雷震子。武成王さんも行ってるのね。
 もう何か作戦実行したんでしょ?私は行かなくて良いの?」


大きなクジラに見える宝貝「花狐貂」の近くにそれぞれ待機しているらしい4人の姿をは捉えた。


「・・・おぬし、その傷であそこに突っ込むつもりか?と武吉はわしと一緒に待機!」


ピシャリと太公望はに言った。




























青天の霹靂   下




























「まずナタクが魔家四将のところへと正面から攻撃を仕掛けようとする」



ナタクは肩に担いでいる宝貝に力を蓄え、魔家四将の四人へと向けた。

魔家四将はナタクの攻撃を跳ね返すために一カ所に固まる。



「次に白鶴に変化した楊ゼンが飛び出してナタクを止め、魔家四将に近付いて注意を引く」



白鶴に変化した楊ゼンは羽を広げて舞い降りてきた。

そしておもむろにナタクの前へと進み、


「魔家四将、もうこれ以上このくじらを使わないで欲しい。僕の命を差し上げますから・・・」


攻撃をしようとするわけでもなく、自ら人質となるように楊ゼンは魔家四将へと近付いた。



「そこに、空に待機していた雷震子が雷を落とし」



「発雷!」


雷震子が叫ぶと、凄まじい音と閃光が走り花狐貂の上に幾筋もの稲妻が落ちた。


魔家四将の、楊ゼンへの注意が逸れる。



「その隙に楊ゼンは、一番厄介だと思える宝貝を持った礼青へと変化する。
 楊ゼンの変化は忠実だ。他の者に見破られることはない。必然的に礼青が戦ねばならない相手は楊ゼンになる。

 そしてその間にナタクは他の3人に攻撃を仕掛ける」



先程力を蓄えていた宝貝を一気に発動させ、ナタクの攻撃は魔家四将へと向かっていった。

が、奇妙な傘のような宝貝を持った礼紅が、その宝貝で難なくナタクの攻撃を跳ね返した。


「この混元傘がある限りキサマたちの攻撃は完全に封じることが出来る」


跳ね返ったナタクの攻撃はナタクの方へと戻ってきて、空高く飛んでいった。



「あの大きなクジラのような宝貝も少々厄介だ。あの宝貝を操っているヤツをどうにかせねばならない」



ナタクの攻撃に関心が向いていたため、魔家四将は後ろから近付いている人物に気付かなかった。



「あのくじらを操っているヤツはあの中で一番体型も小さくて運びやすい。武成王に任せた」



勢いよく武成王は、くじら型宝貝、花狐貂を操っている礼寿の頭を掴んで持ち上げた。


「え」


「おっと、変な真似はすんじゃねぇ。お前の頭なんか玉子を潰すのと同じようなもんなんだからよ」



「これであのくじらが動き出すことはしばらく無かろう」



「・・・おもしろい、あの傘はオレの獲物だ!」


攻撃を跳ね返した人物と、その宝貝を見てナタクは言った。


「勝手に決めんなテメェッ!」


ナタクの声が聞こえたらしい雷震子は不満の声をぶつける。



「これでそれぞれの戦うべき相手が決まるというわけだ」


太公望は花狐貂の上にいる仲間たちを見上げ、言った。


「・・・はー、なるほどねー!よくそんなの思い付くよね、太公望は」


「すごいです、お師匠さまっ!」


と武吉は感嘆の声を上げた。


そして、言っている間にもナタクは誰にも構わず容赦なく攻撃を魔家四将の2人にぶつけている。

雷震子も雷震子で雷を落とし、強風を吹かせる。


「あーあー、あれじゃ跳ね返ってきたときに雷震子まで危ないわよね。ナタクー!危ないよー!」


ナタクの攻撃を見ては言った。


「ナタクさん!コウモリさん!頑張れーっ!!」


「・・・・元気だな、おぬしら・・・」


緊張感の欠片も見えないと武吉を見て、太公望は溜息を吐いた。



そのとき、ナタクの攻撃を跳ね返していた傘宝貝に変化が起こった。


跳ね返しきれなかったらしい、ナタクの強い攻撃は真っ直ぐに跳ね返らず幾本もの攻撃に分かれて周りに飛び散った。

もちろん、雷震子やナタクのいる空の方へも分かれた攻撃は飛んできた。


「うぉあ!!あっ、あぶねぇ!!」


間一髪、跳ね返されて分かれた攻撃を避けた雷震子。


「・・・ちっ 次は全力で行く!」


ナタクは懲りていないようで。

再び宝貝に力を蓄え始めた。




「な・・・なんっだよ、あの子どもとコウモリは!豊邑をぶち壊すつもりか!?おい太公望!あいつらはなんなんだ!?本当に味方なのか!?」


「む?」


「あ、姫発」


武成王に安全な場所まで運んでもらっていたはずの姫発。

爆音から落雷から、たくさんの衝撃音に耐えかねて城壁まで上がってきたのだろう。

子ども、というのはナタクのことで、コウモリ、というのは雷震子のことだ。


「・・・一応味方だが・・・しかしコウモリはなかろう、姫発よ。あやつは雷震子・・・おぬしの弟だぞ」


「・・・・は?なに言ってんだよ太公望。雷震子はこーんな可愛い奴だ!あんな偽物じゃねぇ!」


「こんな」と言われても3人には分からない。

姫発は幼き日の雷震子を思い出しているようだった。


「でもあれってホントに雷震子なんだけどなぁ。姫昌さんの力になりたいからって強くなったらしいよ?」


が姫発に言う。


「・・・・おやじの?」


姫発は、空にいる雷震子を見上げた。





「・・・くそっ!まともに攻撃も当たりゃしねぇ!こうなったら強行突破しかねぇ、素手でぶん殴ってやらぁ!」


猛スピードで雷震子は2人に突っ込んでいった。



「いかん!早まるな雷震子!」


雷震子の行動にいち早く気付いた太公望だったが、遅かった。


礼紅は、今までナタクと雷震子の攻撃を跳ね返していた宝貝を雷震子に向けた。


一瞬宝貝は光り、そして大きな光の塊が出てきたかと思うと、それは雷震子にぶち当たった。


ナタクの今までの攻撃の半分とまではいかないが、だがそれなりに強い力の衝撃を正面から受けた雷震子は、その場に崩れる。


「この宝貝は跳ね返すだけじゃなく、跳ね返した攻撃を吸収して蓄えておけるのだよ」


「キサマはやはり殺しておくべきだったな」


礼海は、自分の宝貝を雷震子の頭の上に振りかざし、勢いを付けて振り下ろした。



バシッ!



寸でのところで、礼海の宝貝は何かに弾かれ手から離れた。


「・・・宝貝人間・・・・」


ナタクだった。

巧みに宝貝を使い、礼海の宝貝を弾いていたのだ。


「ふん・・・バカなヤツらだ。結局は足の引っ張り合いだな」


冷たく礼紅は言い捨てると、傘宝貝をナタクに向け、先程雷震子にしたように吸収していた攻撃を一気に吐き出した。


雷震子同様攻撃を受け、花狐貂の上に落ちてきて動かないナタクを見届けると、礼紅と礼海の2人は後ろを振り返った。


「さぁ味方はやられたぞ楊ゼン。変化を解け」


花狐貂の上に崩れ落ちたナタクと雷震子を確認して礼青は楊ゼンに言った。


そして、礼青に向き合っていたもう1人の礼青の姿が一瞬揺らいだかと思うと、たちまち楊ゼンの姿へと変わった。


「フッ・・・どうやらオレたちを甘く見すぎていたようだな」


礼紅と礼海は楊ゼンの前に、礼青は楊ゼンの後ろに立った。

3人の敵に挟まれた楊ゼンは、ただ黙って宝貝を構える。


とそのとき、ヒュン、という空気を裂く音がして、それは楊ゼンの横を掠め、何かが飛んできた。


それは一直線に礼紅の腕に突き刺さる。


「・・・な、んだ!?」


視線が集中する。

無論、城壁の上にいる太公望たちもそれに気付いた。


「む?」


「何?誰々?」


楊ゼンたちの乗っている花狐天の上に浮かんでいるもう一つの花狐天の影に、2つの影があった。


「あー!あれって天化さんです!」


人一倍目の良い武吉は、その人影を指差し大きな声で言った。


天化の後ろには、天化を崑崙山まで連れて行った哮天犬がいた。

天化を連れていって、また一緒に戻ってきてくれたのだ。


「俺っちこう見えても負けず嫌いでね。再戦さ」


楊ゼンの後ろへと回り込んで、天化は礼青と向き合った。


「天化くん・・・もう傷は平気なのか?」


楊ゼンは横目で天化を確認しながら言った。


「・・・・楊ゼンさん。この剣士は俺っちがやるさ」


楊ゼンの顔も見ず、そして楊ゼンの質問に答えることもなく、天化は礼青を睨んだままそう言った。


「・・・・分かった。
 それじゃ僕は残りの2人の相手をしよう」


天化から目を離し、楊ゼンは礼海と礼紅に向き合った。




「黄天化・・・懲りもせずまた斬られにきたか」


礼青は嘲笑した。

天化は何も言わず、宝貝を握りしめて礼青に向ける。


「今度は命はないぞ、天化!」


礼青は勢いよく飛び上がり、天化に向けて剣を振り下ろした。


剣と剣がぶつかり合う音が響く。


そして、先程天化と戦ったときとは違う違和感に礼青は気付いた。


「おおっ!二刀流か天化!あれなら敵の攻撃を受けられるぜ!!」


花狐天の翼の部分で礼寿と見学していた武成王は大声を出す。




「天化さんだ、天化さんだ!お師匠さま!さん!天化さんが戻ってきましたよ!」


「うーむ・・・」


「どうしたんですか!もっと喜びを体全体で表現して下さいよっ!ほらさんも!!」


武吉は飛び跳ねながら2人に言うが、太公望は唸り、に至っては無言だ。


「確かにナタクと雷震子が倒れた今、戦力が増えるのは喜ばしいことだが・・・」


太公望は腕を組む。


「天化くんは・・・気力だけで立ってるのよ、きっと・・・。天化くんのは短時間で治るような傷じゃなかった」


は俯いた。



「その通りだっ!!」


突如、背後から大きな気配と声が響いた。


「天化は私から教わった闘争心だけで闘っている!戦士に必要なもの!それはガッツだ!ファイトだ!!」


「道徳真君!!」


「・・・道徳さんだ・・・」


『大きな気配』は、道徳真君の黄巾力士だった。

道徳は十二仙の1人で、天化の師匠。

十二仙であるため、太公望ととも知り合いである。


「やあっ 太公望に!千年ぶりだね!!元気だったかい!?」


「・・・道徳さんは相変わらず元気そうで」


「はっはっは!毎日鍛えているからね!生まれてこのかた風邪をひいたこともない私だからね!
 どうだい、も私のところで鍛えてみないか?君ならきっと強くなれる!」


「いえ、遠慮します」


は両手を振って断った。


「しかし道徳、やはり天化の傷は・・・」


太公望は道徳に聞いた。


「痛み止めの薬を与えて傷の縫合をしただけだ」


黄巾力士から降りて、道徳は言った。


「ならばおぬしが戦わぬか!本当に十二仙は頭でっかちの集まりかい!!」


「そうですよ!天化くんは道徳さんの弟子じゃないですか!助けないんですか!?」


「・・・それは無理だよ」


道徳は、太公望とに首を振った。


「我々十二仙が出しゃばれば金鰲十天君も出てくる!そうなったら人間界はめちゃくちゃだ、それはいけない!」


太公望とは一瞬黙った。


「・・・・説得力はすごくあるけど・・・」


「・・・本当は怖いだけなのでは・・・」


「さぁ武吉くん!天化を応援しようっ!」



その頃天化は礼青の攻撃を交わし耐えていた。

二刀流なため、切っ先があたることは無くなっている。

しかし二刀流とはいえ、あれだけの深手を負っていたため、攻撃を防ぐだけで精一杯に見える。



「・・・大丈夫かなぁ天化くん・・・。あんな傷負ってまで戦おうとするなんて・・・」


「意志が強いというか、負けず嫌いというか・・・」


「おや、太公望とが知る天化がどんな人間かは知らないけど、私の知る天化は激しい気性と闘争本能に溢れた強い戦士だ。
 負けることを許せない、強い闘争心で今闘っているように、あの子は強い心を持っているんだ。

 だが、あの子のあの性格が、いつか命取りにならないかと心配している・・・」




凄まじい、剣のぶつかり合う音が絶えず響く。

なんとか天化は二本の剣宝貝で礼青の剣を止める。


ガッ!


一つの違う音がして、天化の持っていた『莫邪の宝剣』の一本が弾かれ宙を飛んだ。


ドス、と剣が花狐天の上に突き刺さった。


「・・・さすがに剣の腕ではあんたの方が上のようだったさ・・・」


天化は弾かれた衝撃で震える左手を押さえた。


「諦めろ、莫邪の宝剣はあと一本だ。一本で俺の攻撃をかわせないのは分かっているだろう?」


フッと笑って、礼青は言った。


「――かわせない?」


天化は剣のなくなった左手で、先程楊ゼンの横を掠めて礼紅の腕に突き刺さったそれと同じものを勢いよく投げた。


ギィン!と、それは礼青の剣に当たり、礼青は押されて後ずさった。


「かわす必要はねぇ・・・今度はこの宝貝『鑚心針』で俺っちが攻める番さ!」


莫邪の宝剣が小さくなったような宝貝を手に持った天化。


「疾ッ!」


再び、空気を裂く音が耳をつく。


「フン・・・慣れぬ宝貝で何が出来る!」


礼青はサッと鑚心針をかわした。


「終わりだ!!」


礼青は剣を天化に向け、そのまま向かってきた。


「・・・っ!?」


しかし、もう少しで切っ先が天化に届くというところで、礼青の動きが止まった。


「・・・な、に・・・?」


礼青はその姿勢のまま、自分の背中に目をやる。


「油断したな、自分の背後に」


天化はニッと笑った。


礼青の背中には、先程天化が投げた宝貝『鑚心針』が突き刺さっていた。

確かに礼青は宝貝を避けた。


天化の言葉に、礼青は後ろを見た。



後ろには楊ゼンと、楊ゼンに向き合っている礼海と礼紅がいる。


「バッ・・・バカな!」


礼紅は攻撃を跳ね返す自分の宝貝を、盾にするように自分の正面で構えていた。


「周りのことに目配せするってのも、大切なことさ」


天化は膝に手を付いた。


「・・・礼紅の混元傘で・・・その宝貝を跳ね返したのか・・・」


言うと、礼青は力無く崩れ落ちた。


「あんた、なかなか手強かったさ・・・」


天化は溜息を吐いて、そう言った。




「よっしゃ!天化よくやった!」


相変わらず花狐天の翼の上で一部始終を見守っていた武成王は、礼寿を捕まえたまま言った。


ガンッ!!


「っだ!?」


抵抗もしない礼寿に油断していた武成王。

礼寿は、花狐天を操るリモコンで、自分を捕まえている武成王の手を殴った。


「ああっ!待てこら!」


礼寿は無言で走り出し、花狐天の体に捕まった。


そして、


ガチャン


礼寿はリモコンを動かす。


「・・・うおっ?うおおっ!?うおーっ!!」


バッサバッサと音がして、武成王の乗っている翼が動いた。

武成王の体は宙へと跳ね上がる。




「あれっ?お師匠さま、何か飛んできますよっ」


「・・・あれは・・・」


城壁の上で、武吉はいち早く飛んでくる何かに気付いて指差す。

つられて太公望ともそっちを見た。



「うぉ・・・!ど、どけぁあ!!」


「きゃーっ!?」


「ああっ!」


「わぁーいっ!」


飛んできたのは、武成王。

景気よく城壁へとぶつかり、その部分が崩れた。


「・・・ったた・・・」


「・・・ぶ、武成王・・・!?何故おぬしが飛んで・・・」


頭をさすると太公望。

武吉だけは無傷らしく、突然のアクシデントに些か楽しそうにしている。。


「わ、悪い太公望どの、敵を逃がしちまってよ・・・」


ぶつかってきた武成王も無傷だった。

武成王はばつが悪そうに言うと、花狐天を見上げる。


「あっ!クジラが動いてます!」


武吉が声を上げた。


そして、大きな鈍い音を出して、花狐天の2つがぶつかり合った。


「あそこって天化君がいたところじゃない!」


悲鳴にも似た声で、が言った。


「いや、大丈夫のようだ」


太公望が、ぶつかり合った花狐天から少し離れたところを指差した。

そこには、哮天犬と楊ゼン、そして哮天犬に服をくわえられて無事な天化の姿があった。


「・・・良かった、無事だったんだ」


は溜息を吐いた。


「さて、それではわしらも行くぞ」


太公望が言った。


「え?行くって、どこに行くんですかお師匠さま?」


「下に降りるのだ。これ以上ここにいてもなんの意味もないからな」


「では私はナタクと雷震子を助けに行ってくるとしよう!健闘を祈るよっ!」


爽やかな笑顔を太公望とに向け、道徳は黄巾力士で飛んでいった。


そしてその後、花狐天の上には誰も乗っていない状態になったため、すぐに楊ゼンが哮天犬を使ったらしい、花狐天は次々と破壊された。




「楊ゼンは分かっておったのだ。魔家四将が『人間の形』であるときに弱らせておく必要があったことに」


城壁から降りて、楊ゼンや天化たちと合流するため、太公望たちは歩いて向かっていた。


「人間の形のとき?あの人たちは人間ではないんですか?」


武吉が興味津々に聞く。


「あの人たちは『妖怪仙人』。あれは『人間の形』をとってるだけで、本当の姿はあんなのじゃないのよ」


が説明した。


「わしが以前に戦った王貴人もそうだったが、妖怪仙人というものは『人間の形』のときに倒されると『原形』に戻る。
 王貴人の原形は石琵琶であったが、魔家四将は違うようだ。

 おそらくは原形に戻ったときこそやつらは心の強さを発揮するのであろう」


「え、太公望って王貴人とも戦ったことあるの?うっわー王貴人っていったら妲己の妹でしょ?
 なんだかんだ言って、太公望ってけっこうな数の敵と出会ってるよね。それに比べて私、大元の妲己にすら会ったことないわ」


「どうせ早かれ遅かれおぬしも妲己には会うのだからそんなことは別によいであろう」


「あーっ!!」


太公望が言い終わるか終わらないかのとき、急に武吉が大声を出して前方を指差した。

そこには、大きくて奇妙な生物がいた。


「うっわー!!あれはなんですかお師匠さま!!」


今にもそれに飛びつかん程の勢いで武吉はそれを眺めた。


「ショウという名の四つ首の幻獣だ。どうやらあれが魔家四将の本当の姿らしいのう」


四つの首が、なんとも禍々しい。

四つ首の一つが、宝貝を構えていた楊ゼンを向いた。


「楊ゼンさん危ない!」


楊ゼンは、敵の攻撃を走って避け、横に回り込んだ。


「これは・・・魔礼青の宝貝の技・・・原形になっても宝貝の技を使うのか・・・」


いくつもの切っ先が何もないところから現れ、地面を切り裂いた。


「てことは無敵じゃねぇかよ!こっちの攻撃はあのナントカっつー宝貝で跳ね返されるんだろ!?」


武成王が叫ぶ。


と、礼青の宝貝を使った首とは違う首が動き、超音波のような、頭を割るような音が響いた。


「うわーっ!頭が痛いですー!!」


頭と耳を押さえ、武吉が倒れた。


「・・・これは、魔礼海の琵琶の音・・・?」


天化は耳を塞いだ。


「楊ゼン、早くせいっ!」


楊ゼンは宝貝を握りしめ、幻獣へと向かっていった。


幻獣の、もう一つの首が動いた。

今度は礼紅の、攻撃を跳ね返すあの宝貝の形がその首の前に出てきた。

楊ゼンの攻撃を跳ね返す気だろう。


そして楊ゼンは走り出した勢いのまま宝貝を振り、空気ごと幻獣を斬った。


パキッ そんな砕ける音がして、宝貝の形をしていた盾が粉々に砕け散った。


「その宝貝はナタクの攻撃でヒビが入っていたはずだ。
 それと、最後の手段で巨大化した悪者は絶対に勝てないものだよ!」


盾の無くなった幻獣は、楊ゼンの攻撃を正面から受けた。

ぐらり

幻獣の体が傾き、そのまま地面へと倒れた。


幻獣が倒れた衝撃で辺りには土煙が立ちこめる。


「わーっ!すごいです楊ゼンさん!お師匠さま、妖怪が倒れましたよ!やっと終わりましたね!」


武吉が歓声を上げた。


「・・・いや、まだ魂魄が飛んでないわ」


が呟く。

幻獣の体こそは倒れたが、肝心の魂魄が飛んでいない。


その時、倒れた幻獣の辺りから、何かがだんだんと広がっていくのが見えた。

それはどんどん周りに広がり、地面を這って近付いてくる。


「これは・・・!?・・・地面が、腐っていく・・・!」


当然だが、倒した幻獣の一番近くにいた楊ゼン。

楊ゼンは、そのドロドロした液体を避けて後退した。


「何これ!?気持ち悪っ!」


「魔家四将の・・・体液か・・・?」


「お師匠さまっ!地面が腐ってますー!」


楊ゼンから比較的遠いところにいた太公望たちのところにも、その液体は広がってきつつあった。


「楊ゼン、早くとどめをさすのだ!」


痛む傷口を押さえながら、太公望が楊ゼンに近付く。


「恐るべき執念よ・・・魔家四将は自らの命と引き替えにこの大地を腐らせてしまうつもりなのだ・・・」


太公望から目を外し、楊ゼンは魔家四将に視線を移す。


「――いやです。
 僕の三尖刀は切り裂く宝貝だからあそこまでは届かないし、哮天犬をあんな汚らわしい物にぶつけたくありません。
 天化くんも傷口が開いてきているから、あまり動かさない方が無難でしょう。
 さんの宝貝は、防御の羽衣宝貝だから攻撃することは出来ない。

 ・・・いえ、こんな理由を並べようが並べまいが関係ないのですけどね。

 太公望師叔、最後はあなたが決めて下さい」


楊ゼンは宝貝の先端を地面に付けた。


「この戦いで僕たち崑崙の道士は初めて力を合わせて戦いました。これは大変な進歩です。

 だからこそ、この戦いに幕を引くのはあなたがふさわしいのです」


楊ゼンは言った。


「――・・・分かった」


太公望は静かに頷き、宝貝を持つ。


「・・・・だが楊ゼンよ・・・あやつ、また動いて襲ってきたら・・・」


「もうそんなことはありませんよ。さぁ背筋を伸ばして!」


楊ゼンは太公望の背中を軽く叩いた。


「・・・でっ では・・・」


太公望は宝貝を上に振り上げ


「疾っ!」


風の音とともに振り下ろした。




一瞬、静けさが走る。




そして、



ドン!!




四つの魂魄が同時に空高く上がり、封神台の方へと一直線に飛んでいった。




「ふぅ・・・今度こそ終わったのう・・・」


太公望は大きく溜息を吐いた。


「お疲れ様、太公望!」


「お師匠さま!締め括り格好良かったです!」


と武吉が、笑顔で走り寄ってきた。


「やっと終わったねー。じゃ、みんなお城の中に戻るよ!」


「・・・・えらく元気だのう、おぬし」


両手を広げて、そこにいる皆に聞こえるようにして促すに、太公望は言った。


「ちゃんとした手当てもしなきゃでしょ?そんな包帯巻いただけじゃ治らないし!さ、怪我人はみんな入った入った!」


「俺っちもか?さん」


両足両腕を怪我しているため、遠くで岩に座っていた天化が、武成王に支えられながら歩いてきた。


「当たり前!ていうか天化くんが一番重い怪我してるんだから」


は天化の背中を押す。

それに揃って、ぞろぞろとメンバーは城に向かった。


・・・どうかしたのか?」


太公望は怪訝そうな顔をして、の顔を覗き込んだ。


「今、私に出来ることっていえば傷の手当くらいでしょ?私、出来ることをするって決めたのよ」


満面の笑みを浮かべ、どこか嬉しそうには言った。


「・・・・は?どういう・・・」


「良いから良いから。太公望もお腹の傷痛いんでしょ?ほら、行って行って」


は太公望の手を掴み、強引に引っ張りながら歩いていく。


四不象が回復して仙人界から帰ってきたのは、それからすぐ後のことだった。





























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初執筆...2004,01,05
改稿...2005,03,14