世界がくらくらと揺れているような感覚。

息をするにも苦しくて、しかも熱は上がる一方。




「・・・私・・・このまま死ぬのかな・・・・」




「ただの風邪だ。あほ




「・・・・ちっ」




























ゆきがたり




























「後はこの薬を飲んで休めば熱も引いて楽になると思うよ」


の手のひらに、2つの小さな白い薬が置かれる。


「薬・・・・。・・・雲中子さんが作ったんですか?」


「そうだとも。さ、飲んで飲んで」


にこにこと笑顔で雲中子は、が薬を飲むのを待っているらしい。

当のはその薬を睨んでいる。


ちゃん・・・疑う気持ちも分かるけど、その薬作るのは私が見てたから大丈夫だよ」


苦笑しながら、雲中子の横で太乙真人は言った。


「あ、そうなんですか?じゃあ」


はそう言うと、一気に水で薬を喉に流し込んだ。


「信用無いなぁ・・・」


残念そうに雲中子が言う。


「雲中子さんの噂はかねがね聞いてますので」


は空になったコップを机の上に置いた。




「じゃ、後はゆっくり休んで。明日まで外に出て遊ぶのは絶対禁止。太公望、ちゃんのことしっかり見張っててくれよ」


そしてと太公望を部屋に残して、太乙真人と雲中子は部屋から出て行った。


「・・・・何で明日まで外に出るの禁止なのよ。せっかく初雪が積もってるってのに!昨日のだけじゃ遊びきれてない!」


ぼふっとは布団を叩いた。


「――自業自得だ。早く熱を下げれば明日からは外に出て良いと言っておっただろう。だから今日はゆっくり休め」


ぽんぽん、と太公望は宥めるようにの頭に手を軽く乗せる。


「太公望には雪が積もったときの感激がないんだね」


は不満の声を上げる。


「望ちゃんには感性っていう大事な部分が年を取るに連れて欠落しちゃったんだよ、きっと」


「なるほどねぇ・・・年だけは取りたくないわ・・・」


は頷いた。


「「・・・・ん?」」


この部屋には2人だけしかいなかったはず。

太公望とは同時に部屋のドアに目をやった。


「・・・・普賢。・・・何をやっておるのだ。というかいつの間に・・・」


「あ、ホントだ。何してんの?」


ドアの前には普賢が立っていた。

右手には花束を持っていて、左手をひらひら振っている。


ちゃんが倒れたって聞いたからお見舞いにね。雪の中、雪だるまの横で寝てたんだって?そりゃ風邪もひくだろうね。何で外なんかで寝てたの」


あはは、と笑いながら普賢は持ってきた花束を、これまた持参していた花瓶に生けた。


「だって初雪だよ、初雪!しかも積もったんだよ!こんなこと滅多にあるもんじゃないでしょ?雪だるま3つ、雪ウサギは5つくらい作ったっけ。かまくらも作りたかったんだけど途中で眠くなっちゃってね。
 で、起きたらこの部屋にいたのよね」


思い出しながらは説明する。


「・・・・アホか・・・」


太公望が呟いた。


「アホとは何よアホとは!だって嬉しいじゃない。ここってみんなが住んでる地上よりかなり高いでしょ?
 だからね、もし雪が降ってきたら、地上にいる誰よりも早く雪に気付けるんだよ。地上にいる雪が好きな人たちよりも先に私は雪が降ってきた喜びを知ることが出来るじゃない。
 そういうとこでちょっと優越感に浸れるのよね!だから嬉しいの。・・・・・太公望には分かんないだろうけどー」


怒ったようには太公望から顔を背けた。

ベッドの横の椅子に座った普賢は、そんなを見て微笑んだ。


ちゃんらしい考え方だよね」


は照れたように笑った。


「とにかく明日までに熱下げないとね!明日はかまくら作ー・・・」


ふらっとの体が傾いた。


「うお!?・・・起きておかんで早く休め・・・」


の体が傾いた側にいた太公望はを支えた。


「・・・・はいはい・・・」


渋々、は体を横にする。


「そろそろ僕は戻ろうかな。実は弟子の修行の途中で抜けて来ちゃったんだよね」


椅子から立ち上がって普賢は言った。


「あ、うん。ありがとう普賢」


顔だけを普賢に向け、は笑いながら言った。


「明日の雪遊び、僕も手伝うからね」


「ホント?あはは、よろしくねー」


は右手を力無く振った。


「望ちゃん、ちゃんが弱ってるからって手出すのは駄目だからね」


満面の笑顔で普賢は言った。


「・・・出すかぁ!」


太公望は椅子から勢いよく立った。

は暢気に「はは」と笑った。


「じゃ、お大事にねちゃん」


そして、普賢は静かに部屋から出て行った。


「・・・全く・・・何だというのだ普賢のヤツ・・・」


ブツブツと太公望は呟いている。



「・・・・ねぇ太公望・・・」


突然、が話し掛けた。


「何だ?」


太公望は腕を組んだままを見る。


「えっとね、・・・えへへ」


「・・・・何だ、気色悪い笑い方しおって・・・」


「失礼だな・・・。あのね・・・私をこの部屋まで運んでくれたのってさ、太公望?」


突如切り出された話題に、沈黙が訪れる。


「――何故だ?」


太公望が逆に問うた。


「えーと・・・何となく、太公望かなって思って。何か、ちょっと覚えてるかもしれないから」


真っ白な景色、頭がぼんやりする中、自分の名前を呼んでいたのは彼だったかもしれないと、そう思ったから。

はっきり覚えているわけでもなく、何の根拠もないのだが。



「・・・・重かった」


「やかましい。って、やっぱり太公望だったんだ。言ってくれれば良いのに」


「・・・・・」


「そこで何で黙るのよ」


それ以上、太公望は何も言わなかった。


「ありがとう太公望」


代わりにまたが口を開く。



「あのままじゃ凍死してたかもしれないもんね。感謝してます。良い兄弟子を持って私は幸せだわ」


天井を見つめたままは言った。


「・・・・えらく素直な・・・・。熱でおかしくなったのか、おぬし・・・?」


「うるっさいな。でも太公望だって素直で可愛い妹弟子の方が良いでしょ?」


「良いからもう休めというに・・・」


「はいはいっと。おやすみなさい」


は布団の中に潜り込んだ。



「そうだ太公望。明日のかまくら作り、太公望も手伝ってね」


潜ったかと思ったら、急に顔を出しては笑顔で言った。


「何でわしまで・・・」


「おやすみー」



太公望の深い溜息だけが部屋に響いた。





『封神計画』発動の日にはまだ遠い、とある冬の日。




























































さん、もちろん普賢とも仲良しです。

実はそれが一番書きたかっ(強制終了