突如城を訪れた太公望を、武王たちは快く歓迎した。


「太公望さん」


外に面した廊下の手すりに腰を下ろし、空を見上げている太公望を、通りかかった邑姜が見つけた。呼ぶと太公望は邑姜に気づき、笑顔を向けた。


「結構長く、こちらにいらっしゃるんですね」


邑姜は巻物を数本手に、太公望の隣へ腰掛けた。


「まぁのう」


太公望が朝歌に現れて、すでに四日が過ぎていた。だが、四不象も武吉もも連れず一人でやって来た太公望に、なぜ一人なのか、突然どうしたのかを聞く人間はいなかった。


さんはお元気ですか?」


尋ねると、太公望は少し驚いたようだった。邑姜の様子を横目で伺う。


「……うむ、元気でやっておるよ」


一拍置いて、太公望は答えた。その答えに、邑姜は笑みを浮かべる。


「良かった。今度はさんも一緒にいらしてくださいね、もちろんスープーちゃんたちも」


そう言うと、邑姜は巻物を持ち直して腰を上げた。


「太公望さん」


廊下に立つ邑姜を太公望は見る。


「仙道の方たちは不老不死だとお聞きしますが、それにかまけて、いつでも出来るからと、やれることをやらないのはただの損だと思います」


邑姜の言葉の意図が掴めず、太公望はそのまま邑姜を見つめた。


「会えるときは会っておかないと。寂しくさせるだけですよ、太公望さん」


邑姜はにっこりした。


全てを見透かしているかのような邑姜の瞳に、太公望はようやく合点がいき、


「……そうだのう、そうかもしれぬ」


ふと笑った。


「私たちにはいつか必ず終わりが来ますから、それまでに悔いの無いようにと躍起になりますが、仙道の方たちにだって、「終わり」が絶対に無いわけではないでしょう?」


太公望は苦笑いに似た笑みを浮かべる。「仕事に戻ります」と言い、邑姜は太公望に背を向けて歩いていった。太公望はそれを見送る。


「……そうだのう」


再び空を見上げて、ぽつりと呟いた。


会いに行くとするか。


別に、会いたくないわけではない。むしろその逆なのだが、どんな顔をするか見るのが少し怖かった。
平然となんでもない顔で、「あ、生きてたの」などと言われたらどうしようか。


――それは、悲しいのう。


太公望は小さく息をつくと、立ち上がり、自分を勇気づけるかのように大きく伸びをした。















2009,03,05