女カの両手が首に伸びてきて、辺りは一瞬にして光に支配された。


痛みも苦しみも何もなかった。ただ、気付くと体がぱらぱらと、さらさらと、まるで砂の城が壊れるかのように、崩れていっていた。


一緒に消えてくれと、女カは最後に言い残し、先にパキンと崩れて消えた。破片は流れるように、光の中で見えなくなった。


どこかでこんな最後を予想していたのかもしれない。対女カ用に残った始祖である、自分の最後を。


不思議なことに、悲しさはなかった。今の自分の状況を、冷静に遠くから見つめている自分がいた。全てをやり終えた始祖である自分にとって、こんな終わり方は悪くないかも知れない。


ただ、一つだけ、思い残したことがあるとすれば。


ご主人、お師匠さま、と呼ぶ声が聞こえる。消えるはずのない光に向けて、水をかけ続けているのが見えた。
そんな仲間たちの中に、突っ立ったままこちらを見上げている彼女の姿もあった。


そんな顔をしないでほしい。「始祖でない自分」が、仙人界で出会った初めての女の子だった。彼女の笑顔が好きだった。


「――


最後に、の笑顔が見たかった。


最後に、に別れを告げたかった。あんなに一緒にいたのに、最後はなんとも呆気ないものだ。


最後に、もう一度声が聞きたかった。笑う声が聞きたかった。


最後に、


本当は、最後になんてしたくないのかもしれなかった。


四不象や武吉の声が段々遠のいていく。太公望は静かに目を閉じた。


――太公望ちゃん


妲己の声が、響いた気がした。
















2009,03,04