いつも会いに来てくれるが、自分から会いに行ったことはない。探し出せる自信がないということが理由に挙げられる。今どこにいるのか、これからどこに行くのか、把握なんてしていないし知らない。 少し遠くなったような気がする。実際に会ってみると何も変わっていないのに、離れてみると今までよりずっと遠い場所に行ってしまったような気がするのだ。今まで一緒に居すぎたのだろうか。 自分から会いに行って、探しに行って、会ってもらえるという自信もなかった。彼の目は、ずっと広く大きなものに向いているような気がしてならないから。見ているものが大きすぎて広すぎて、その中にぽつんと何もせず突っ立っているはすぐ薄れてしまう。 「全て」になった妲己は広すぎる。「全て」になれるはずだった女カは大きすぎる。 太公望は王天君で、本当は王奕で伏羲だった。どの人物が嘘だとか本当だとかは無い。どれも本当なのだ。 私は太公望しか知らないね、と言うと、不思議そうな顔をしていた。彼の中では一番最初の一番昔の「伏羲」から、一番新しい一番最近の「太公望」まで全てが一緒なのだから。ただその中の「太公望」だけしか、は知らないという話。 まだ「太公望」と呼んでいいのか少し迷った。それでも、が知っているのは「太公望」だし、「太公望」とずっと一緒にいたのだから呼び方をわざわざ変えるのはおかしい気がして、そのままにした。 要するに、今までずっと一緒にいた人間が全く知らない人間になったような気がして、それまで近くにいたはずだったのにとても遠くなったような気がして、寂しいのだ。ただそれだけ。 会いに行っても「いない」ような気がして、見つけられないような気がして会いに行く勇気が出ない。いつからこんな風になったのだろうとは溜息をついた。前までは、もっとしっかりしていたはずなのに。 それでも、溜息に気付いたのか頭を撫でてくれた手のひらが思いの外温かくて、少し驚くと同時にやはり嬉しかった。抱きしめる腕は優しい。目を閉じると、太公望以外の何者でもないと感覚全てが理解する。 「……」 そうして耳元で呟くように名を呼ぶ声はとても心地良い。その瞬間、世界が突然色づいたように目を覚ます。 こうやって名前を呼んで、抱きしめて、髪を撫でてくれるのは「太公望」がいたからだと知っている。今もちゃんといるのだけれど。 いつか、自分からあなたへ会いに行けるようになりますように。なれますように。 戻 2007,03,19 |