「葦護、これあげる」


そう言ったは、葦護との距離を縮めた。膝立ちになったから、葦護より頭一つ分背が高くなる。ふわりと両手を伸ばして、帽子の上から置かれたそれは、ひらひらと一二枚花びらを散らせた。


「…なんだ これ」


「花の冠」


「そりゃ…見れば分かるがよ」


葦護は自分の頭の上に手をあてる。生きた花びらの感触がした。そっと、それが壊れないように目線まで下ろしてみた。白と、薄い桃色の花で器用に編まれた花の冠だった。見栄えが良いようになのか、葉も一緒に編み込んである。


「ちょっと、勝手に取らないでよー」


折角作ったのに、とは少し膨れ面で言った。そのの手の中には、すでにもう一つ花の冠がほぼ出来上がっていた。


「ほら、葦護見て、おそろい」


は出来上がったもう一つの冠を頭に乗せた。何が嬉しいんだか、と葦護は半ば呆れ顔でを見つめる。は気にする様子もなくまた周りに咲く花を摘み始めた。


「道行さんにも作ろうね」


「…いくつ作るつもりだよ」


「黄竜師匠と、他の十二仙にも」


一瞬、の表情に暗い影が落ちたのを、葦護は見た。
葦護は、さっきがそうしたように、再び自分の頭に冠を乗せた。花と花が擦れる音がすぐ近くでする。は嬉しそうに笑った。


「似合うよ、葦護!」


彼女は日だまりに咲く、春の花に似ていた。日だまりがなくなったら、すぐに枯れてしまう。


「うるせー」


だから、日だまりを作りたいと思った。枯れないように。永遠に続くような。


















十二仙が封神されてしまった後の話です。


2006,02,05