「ねえ」


だるそうに、見上げてくる瞳。真っ黒なその中に映る自分の姿を確認すると、


「活躍したそうですね」


「……なにが」


寝転がるその隣に腰を下ろした。相手は、それを一瞥すると、また視線を元に戻す。


「十天君を倒したとか、どうとか」


は足を伸ばすと、隣で、腕を枕にして、顔を空に向けている葦護に言った。返事は返ってこない。


「なんか、ナタクって人と一緒に、十天君の中でも結構強い人と戦ったとか」


仙界大戦が全て終わって、聞いた話。修理をし続けている太乙真人にばったり会い、「修理長いですね」と言ったら、長々修理しなければならなくなった経緯を教えてくれた。


「当たり前だけど、怪我もしたとか」


じっと見つめるを尻目に、あろうことか葦護は目を閉じ、


「…って、ちょっと。聞いてんの?」


目を閉じないでよ。は葦護に近寄ると、肩を揺すった。


「…あーもう、うるさいなおまえ」


ようやく目を開けたかと思うと、その一言と、手は払い除けられる。は露骨に顔をしかめると、勢いよく立ち上がった。小さく風が起こる。


「せっかく、お疲れ様って言おうと思ったのに」


見下ろす顔には、苛立ちと、怒りと、少しだけ悲しみがうつっていた。葦護から見上げて、の髪は陽の光を受けてきらきらしていて。


「もういいよ。お昼寝、邪魔して、すいませんでした、ね!」


たん、たん、と規則的に足を進めて屋根を降りる。下り坂と同じように。





「何!」


ぎっと睨みながら振り返った。葦護はもう寝転がってはおらず、上半身を起こして、を真っ直ぐ捉えている。


「いや、ありがとう」


にやけながら葦護は言って、はそのまま止まった。表情からは、苛立ちも怒りも悲しみも消えて、だが、なんとも微妙な顔。


「…もう、今更そんなん、言っても、遅い!」


睨みつけてくるの目に、先程のような冷たさはなかった。少しだけ、機嫌も直ったと見える。


「ついでに、葦護かっこいいねとか言おうと思ってたけど、もう言わないから!」


そう言い捨てると、の姿はそこから消えた。後には、のものと思われる、走っていく足音だけが残った。それも段々遠ざかり、


「…言ってんじゃねーか」


ふ、と葦護は堪えきれず吹き出した。言ったということに正直気付いてないのか、それとも狙ってわざと言ったのか。


「…かわいいなぁ あいつ」


再び、葦護は腕を枕に寝転がった。後で、もう一回くらい謝ったら、また言ってくれるだろうか。














タイトルはNさんが考えて下さいました。ありがとうございました!


2005,08,29